⑹四大精霊会議

 広大な海原に似た湖畔こはんは、爽やかな風の中で静かに凪いでいた。辺りを囲む白い木々は細く伸び、豊かな白銀色の葉が揺れる。


 夜明け前のような空は藤色に染まり、朝日も月も星も見えなかった。それでも、世界は薄ぼんやりと照らされ、まるで絶望の淵から希望が顔を出すかのように見えた。


 此処は、完成された箱庭だ。

 昴はそう思った。


 ウンディーネの導きの元、昴はエレメントの棲まう精霊界へやって来ていた。天動説の魔法界の遥か上空に位置する精霊界は、人間や魔法使いの干渉出来ない謂わば天国のような存在らしかった。


 湖畔の向こうは白んでいて、果てが見えない。

 今にも朝日が昇るような気配を漂わせているが、この世界には太陽は昇らないらしい。美しい風景に包まれたこの世界には、エレメント以外は存在しない。研ぎ澄まされた永遠の孤独が、其処にはあった。


 ロキが退屈を持て余すのも分かる。

 膨大な時間の流れから隔絶されたこの世界は、全てが叶うのに、のだ。

 飢えが無ければ、満腹感も無い。寒さが無ければ、暖かさも無い。痛みも無ければ、癒しも無い。果てしない虚無は、常人ならば気が狂ってしまうだろう。


 昴はシャワーを浴びて、上等な生地の衣装に着替えた。魔法界の上流階級にのみ許された正装なのだと言う。厚手の外套は足元まで覆い、絹のような滑らかなシャツはしわ一つ無い。魔法の効果なのか生地は金箔を散らせたように薄く輝き、纏うだけで背筋が伸びる。


 汚れた衣服を替えたところで、ウルと合流した。正装した昴とは異なり、ウルは着古した土色の外套を纏っていた。流石に洗濯はされているのか、薄汚れたコソ泥から華麗な怪盗くらいには階級が上がっている。


 昴は、あの二人のことが気に掛かった。

 見目麗しい二人の少年は、ウンディーネに休息を促されていた。断固として突っ撥ねる航を、湊がどうどうと往なしていたが、個室に消えた後、どうしたのか解らない。


 正装の為か肩が凝り、落ち着かない。

 ウンディーネの眷属だと言う可憐な水の精に案内され、昴は世界を一望出来る庭にいた。ウルは退屈凌ぎにナイフの手入れをしていた。


 その時、足音も無く、誰かがやって来た。




「馬子にも衣装だねえ」




 紅蓮の炎を映した瞳、掴み所の無い浮き雲のような佇まい。ロキは、地の底より深い黒と、血のような鮮やかな赤を織り交ぜた上品な服装を纏っていた。

 神出鬼没で何処か人間らしいロキが、エレメントと呼ばれる神のような存在なのだと思い知る。


 揶揄やゆするように、ロキは笑っていた。




「お前等、とんでもない奴等を連れて来たな」

「とんでもない?」

「あのガキ共だよ」




 エレメントであるロキに、とんでもないと言わしめる二人が何なのか、昴にはよく分からない。

 ロキは退屈そうに空を眺めてから、言った。




「まあ、そのことも、議題に上がるだろうさ」

「議題って何」

「これから、四大精霊会議を行う」




 四大精霊――。

 四元論の考え方では、この世は四つの元素で構築されている。火、水、風、地の元素はそれぞれ人格を持ったエレメントになり、精霊界から魔法界を見下ろしているのだ。


 魔法の元となった概念そのもの。昴はその中の二人、シルフとノームは初対面だった。サラマンダーやウンディーネのように友好的とは限らない。


 昴は自然と身構えていた。だが、ロキは言った。




「取って食いやしないよ。俺たちは、殺生には関わらない」




 確かに、そうだ。

 エレメントは強大な力を持っているが、殺生には制限が掛かる。それを破ればエレメントは消失してしまうらしい。


 昴は僅かに肩の力を抜いた。

 その時、乾いた足音が聞こえた。振り返ると、其処にはすっかり着替えを済ませた二人の少年が立っていた。


 航は灰色のプリントTシャツに、股下の長いパンツ――サルエルと言うらしい――と、真っ赤なスニーカーを履いていた。人間界の文化はよく分からないが、正装した昴に比べるとラフな普段着と言った調子だ。


 苛烈で傲岸不遜な彼に、よく似合っている。少年特有の線の細さや不完全さを虚勢で隠しているみたいに見えて、何となく微笑ましくなる。


 対して、湊はシンプルなストライプのシャツと細身の黒いパンツ、温かな色合いのキャンパスシューズを履いていた。如何いかにも好感の持てる爽やかな服装だった。よく似合っているが、昴は其処に死んだヒーローの姿を重ね見て辛かった。


 二人は仲良く――とはお世辞にも言えない、明らかな距離感を保っていた。もしかすると、兄弟仲は良好とは言えないのかも知れない。


 何と声を掛けるべきか悩んでいると、ロキが前に進み出た。

 相変わらず、何を考えているのか解らない軽薄な笑みを浮かべている。航は警戒を強くしたが、湊は至って変わらず、フラットな顔付きでロキを見ていた。




「お前等、あのヒーローの息子なんだって?」




 ロキが問うと、真っ直ぐな眼差しを向けたまま、湊が航を庇った。

 昴の目には二人の年の差は分からないが、態度から察するに、湊が兄なのかも知れない。


 ロキはくつくつと喉を鳴らすように笑っていた。




「あのヒーローは、本当にイレギュラーを起こしてくれるな」




 それは嫌味と言うよりは、賞賛に近い。

 湊はロキの瞳をじっと見詰めていた。




「これから行う四大精霊会議では、お前等の目的についても言及されるだろう」

「どうして?」




 子犬のような円らな瞳で、湊が問い掛ける。

 和輝に似ている。いつも飄々として余裕を失くさないロキが、訝しむように目を眇めた。いつかのヒーローとロキの遣り取りを思い起こし、昴はくすぐったいような、虚しいような、奇妙な心地になる。




「俺たちの目的は一つだ。それ以外に求めるものは無い。それが魔法界に影響を与えるとは思えない」

「それは蛇足みたいなもんだよ。お前等は、魔法界に無いものを持ち込んでしまった」

「何を?」

だよ」




 ロキの言葉の意味が、分からない。

 きっと、湊や航にも、分からなかっただろう。


 上衣を翻したロキが、横顔だけ振り返って言った。




「付いて来い。会議が始まる」

「僕は何をしたらいいんだろう」

「祈ってろ。退屈な時間になりませんように、と」




 犬歯を覗かせて、ロキが悪童のように笑った。

 退屈を蛇蝎だかつの如く忌み嫌う彼にとっては、建設的な話し合いであるか否かは関係が無く、其処に熱量を求めている。


 昴は会議の理由も議題も何も分からない。だが、嵐の予感に備え、深呼吸をした。







 10.メーデー

 ⑹四大精霊会議








 広間の中央には白い円卓が置かれていた。取り囲む部屋の調度品は細やかな装飾が施され、精霊の住処すみかと呼ぶに相応しい清潔で綺麗な様相を呈していた。


 四つの燭台しょくだいが、等間隔に並んでいる。ロキは近くに置かれた椅子を引き、偉そうにどかりと座った。すると、燭台の蝋燭ろうそくに火が灯った。ロキの瞳によく似た緋色の炎だった。


 室内は張り詰めるような静寂に包まれている。

 昴たちが円卓から離れた席に着くと、ロキの右隣の燭台に青白い炎が灯る。

 水色の光の粒子の中、ウンディーネが現れた。凛と背筋を伸ばす様は美しい一輪の花のようだ。白いワンピースは繊細なレースがふんだんにあしらわれ、一目で高価なものと分かる。


 そして、次に灯ったのは、爆ぜるような金色の炎だった。清涼な春の暖かな風が室内を駆け抜け、無人だった席に一人の華奢な少女が座る。

 波打つ金糸の髪を頭頂部で一纏めにした利発そうな少女だった。だが、その背には透明な四枚の羽が見えた。膝上のワンピースは黄金色に輝き、蕩けそうな蜜色の瞳が燭台を静かに見詰めていた。

 シルフだ。名に恥じぬ妖精のような可憐な姿に、昴は感動すら覚えた。


 残りは一つ。

 昴が燭台を見詰めていると、突如として扉がけたたましく蹴破られた。豪華な扉を吹き飛ばしたのは、小柄ながらに筋骨隆々な老人だった。その勢いが過ぎて、天井から下がるシャンデリアさえ揺れている。

 無骨な老人は室内を睨め付けるようにして一巡し、やがて、ロキを見て止まった。




「まだ生きていやがったのか、サラマンダー」

「余計なお世話だ。さっさと席に着け。お前が最後だぞ」




 ロキ――サラマンダーとノームは、相性が悪いらしい。話に聞く以上に険悪な空気に、昴は腰を浮かせた。何か起きた時、昴は湊と航を守らなければならない。

 だが、二人の少年は微動だにせず、彼等の遣り取りを遠くに見ていた。


 ノームが席に着くと、燭台は不純物でも混ざっているみたいに煤を上げて火を灯した。それは彼の鋭い深緑の瞳と同じ色をしていた。


 一瞬の静寂。

 堪え兼ねたのか、シルフが手を打ち鳴らした。




「今日は、話し合いをしに来たの! 喧嘩がしたいなら、お外へどうぞ!」




 ロキもノームも、そっぽを向いていた。

 神に等しいエレメントの会議とは思えない滑稽さだ。昴は溜息と共に腰を下ろし、彼等の話を聞く体勢を取った。


 どうやら、シルフが話を進行してくれるらしい。

 ウンディーネは我関わらずといった調子で、目も向けない。既に話し合いと呼ぶには破綻しているが、これが彼等の会議なのだろう。


 シルフは咳払いをした。




「今、魔法界はとんでもないことになってるの。王族支配を覆すイレギュラーが起きてしまったから」

「昴のことだぞ」




 横顔で振り返り、ロキは悪戯っぽく言った。

 覚えが無いので、昴は何を責められるのか分からなくて逃げ出したいような心地になる。けれど、隣にいたウルが肩を叩いた。




「お前は悪い奴じゃない。俺は仲間を見捨てやしねえし、裏切ったりもしねえ」




 だから、肩の力、抜いてけ。

 ウルの裏表の無い優しさに救われて、昴は大きく息を吐き出した。

 エレメントの話し合いは続いている。




「王の一族に出現するはずの魔法構造が、末子の昴に発現してしまった。王家は力の継承に失敗し、一先ず、昴を王都の地下に幽閉することにした」

「なんで?」




 問い掛けたのは、湊だった。

 分からないことを放置出来ない好奇心の強い子なのだろう。この場にいたのがヒーローだったとしても、同じ言葉を告げたかも知れない。




「その魔法構造が昴に受け継がれたのなら、昴が王様になればいいじゃないか」

「王位継承権で言うのなら、昴は末席だ。魔力が血に宿る以上、昴は身に余る強大な魔法構造だけを継承した謂わば、生きる兵器だ」




 顎髭あごひげいじりながら、ノームは退屈そうに言った。

 彼等はエレメントだ。王位継承権や生まれについて叱責しているのではない。けれど、兵器というその言葉が、昴の頭の中で何度も何度も響き続ける。


 人間扱いされていないことは、重々承知だ。

 王の軍勢もレグルスも、シリウスさえも昴を兵器と見做している。事実として、そういう見方もあるのだ。だから、昴は地下深くの牢獄へ幽閉されていた。




「魔法使い共に過ぎた力を与えるから、こんなことになるんだ」

「与えたのは神だ。俺たちが文句を言ったって意味が無い」




 肘を突いたロキが、つまらなそうに言う。




「神の決定に逆らうのか?」

「違う。その兵器を王都から連れ出し、あまつさえ、人間界へ隠した浅はかなエレメントの愚行を責めているのだ」

「愚行だったかな?」




 なあ、ウンディーネ。

 ロキは皮肉っぽい笑みを浮かべたまま、隣のウンディーネへ投げ掛ける。けれど、彼女は全てを聞き流すかのように静寂を守っていた。

 昴を牢獄から連れ出したのはロキだ。だが、共犯者がいる。恐らく、ウンディーネは其処に一枚噛んでいるだろう。


 再び、シルフは両手を打ち鳴らした。




「脱線させないでよ! これじゃ、いつまで経っても本題に入れないわ!」

「そりゃ、失礼」




 欠片も悪いとは思っていないだろう軽薄な態度で、ロキが言った。ノームの顳顬こめかみに青筋が走る。犬猿の仲なのだろう。




「昴は人間界から、魔法界には無い思想を持ち込んだ。お蔭で、それまでの王族支配に従っていたはずの民衆は暴動を起こし、王族は鎮圧の為に多くの血の粛清を行った」

「悪政だな。これはもう、打ち倒すしかねえな」




 ロキは何処まで本気で言っているのだろう。

 そもそも、この状況を招いたのはロキだ。事の重大性に気付き、昴はその恐ろしさに汗が止まらなかった。


 ノームが机を叩き付けた。




「そもそも、貴様が訳の分からないことで魔法界を引っ掻き回すから、こんなことになったんだ!」

「じゃあ、昴はあの牢獄で兵器として使われていれば良かったって言うのか?」

「大義の為の犠牲だ。大いなる力には代償がいる」

「顔も知らない他人の為に、昴は兵器として利用され、家畜以下の扱いを受けろと?」

「そうだ」




 迷いの無いノームの返答に、昴は悲しくなった。

 自分は、彼処から出てはならなかったのだ。独り善がりな欲望が、大勢の人々の混乱を齎し、血を流させた。


 一触即発の不穏な空気の中で、ノームの濁り太った声が恫喝的に響いた。




「秩序を乱すだけの野蛮な火蜥蜴ひとかげには分からんだろう。いっそ、消し潰してやる」

「やってみろ、臆病な土竜もぐらが。一生、あなぐらから出られないようにしてやろうか」




 シルフは溜息を吐いた。




「喧嘩なら、他所よそでやって欲しいわ。私達が話し合いたいのは、魔法界の今後のこと。過ぎたことは仕方が無いの」




 分かる?

 シルフはノームを見た。


 一見すると、頑固爺と世話焼きな孫だ。ノームはいじけたようにそっぽを向いて言った。




「我々はエレメントだ。魔法界のいさかいに介入する理由は無い」

「まあ、そうね」




 ノームの意見に、シルフが共感を示す。

 それまで黙っていたウンディーネが口を開いた。




「私は昴を牢獄から出した。其処に罪があったのなら、償いは果たすわ」




 彼等は、保守派なのだ。現状維持が最善だと知っている。それはエレメントの常識に則った当たり前の答えなのかも知れない。

 昴は何か反論するべきか悩んだ。自分たちは、エレメントの協力が欲しい。自分たちだけでは王族支配を覆し、民衆を守ることが出来ない。


 すると、黙って聞いていたロキは、緋色の瞳に燃え盛るような怒りを浮かべて言った。




「寝惚けたこと言ってんじゃねぇぞ。今、魔法界で使われているのは、俺たちの力なんだ。俺たちの力が、下らない王位継承争いとか、訳の分からない革命とかに利用されているんだ。これを黙って見過ごして、何がエレメントだ」




 少なくとも、ロキだけは、昴の味方だ。

 それは仲間と呼ぶよりは利害の一致した共犯関係に近い。けれど、言葉だけならば、ロキは他のエレメントに比べて人間的な感性を持ち、昴を兵器ではなく一つの命と認めてくれている。それがどんなに心強く、救っているのか、彼は分からないだろう。


 しかし、ノームとシルフが言った。




「人には人の営みがある。王族支配が齎したのは統治による平和だ。現状に問題が無い以上、エレメントが出張る理由はない」

「魔法使いとエレメントは棲み分けをしなければならないわ。そういう風に出来ているの。私たちは殺生を繰り返せば消滅する。出来ることは、何も無いわ」




 その時、ぴっと手が上がった。

 湊だ。エレメントの会談に小さな少年が何かを言おうとしている。ロキは彼を見遣った。




「何だ、クソガキ」

「クソガキじゃないよ。俺は湊って名前がある」




 湊はそれを指名されたと認識したらしく、ぴしりと立ち上がった。




「要するに、アンタたちは怖いんだ。それまでの古臭い因習に縛られて、何が起こるか分からないから」

「何だと?」




 音を立ててノームが立ち上がる。反動で椅子が後方に倒れ、室内に嫌な空気が充満した。それにも関わらず、湊も航も、眉一つ動かさず平然としていた。




「魔法界のことを何も知らない青二才が偉そうな口を利くな!」

「何も知らないよ。でも、アンタたちが動けば、助かる命があるかも知れない」




 ノームは舌打ちをした。まるで、分かってないと言うように。




「魔法界には不干渉の盟約がある。魔法使いの争いに、エレメントが出張る理由は無い。奴等は勝手に生きて、勝手に死ぬ」




 ノームは昴を見た。深緑の瞳は、まるで覗き込めば二度と戻れない深淵のようだった。

 人の形をしているが、彼等は人ではない。




「お前は知っているだろう。奴等が如何いかに傲慢で狡猾こうかつで脆弱な種族であるか。マナの恩恵を受けながらも、やっていることは無能な人間と同じだ」




 昴が答えるより早く、ロキが反論した。




「いや、人間はもっとまともな生き物だよ。魔法使いのように、己の為だけに他者を利用したり、能力の無い者を虐げたりはしない。少なくとも、俺が知る人間はもっと美しくしたたかに生きていた」




 ロキは、ヒーローと透明人間を思い出しているようだった。




「交渉は決裂だな」




 そう言って、ノームは立ち去ろうとした。

 だが、その背中に向かって、航が言った。




「もしもさ」




 足を止めたノームが、不機嫌そうに顔を歪める。

 航は挑戦的に笑っていた。




「もしもアンタが、人間も中々やるじゃねーかって思ったら。その時は、力を貸してくれよ」




 ノームは鼻を鳴らした。




「そんな日が来るとは思えんな」

「来るさ」




 湊が言った。

 そして、二人は声を揃えた。




「俺たちが、証明する」




 壊れ掛けた扉の向こう、ノームの背中が消えて行く。

 あーあ、と投げ遣りな声を出したロキも、すっかり俯いた昴も、そのことに気付かなかった。


 湊と航は火の点いた目をしていた。




「笑ってたな」

「うん、笑ってた」




 囁き合うように言う二人が何のことを指しているのか分からず、昴は問い掛けた。




「誰が笑ってたって?」

「あのお爺さん」




 彼等にしたら、神に等しいエレメントも頑固なお爺さんだ。そんな二人が微笑ましかった。昴が撫でてやりたいと思って手を伸ばした時、二人は好戦的な笑みを浮かべていた。




は、得意分野だよ」




 二人の少年は、声を揃えた。

 昴は、嘗て人間界で見たヒーローと透明人間の姿を思い出した。


 明けない夜はないと、知っているからだよ。

 いいか、この世には絶望なんて無いんだ。


 此処にいるはずの無い彼等の声が蘇り。身体中に活力が満ちて行くのが分かる。この二人は、まるで太陽だ。

 太陽も月も昇らない完成された世界を照らす、二つの太陽。

 それは頼りにするには幼く小さな力であったが、昴にとっては千の軍勢を得たかのように力強かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る