なす

草群 鶏

灰色の液体

「灰汁と書いてアクと読む……」

「これはアクっていうか色素すね」

 そうじゃなくて、という言葉は目の前の男が椀のなかみとともに吸い込んでしまった。後輩の沢村は童顔に喜色を浮かべ、うまいうまいと屈託がない。

 花の金曜日に、何が悲しくて男ふたり食卓を挟んでいるのか。

 職場でもらってきた山のような量のナスは、くろぐろぴちぴちと輝いていた。新鮮すぎてヘタがとげとげしている。結構なことだが、問題は、男の一人暮らしではこの量を捌ききれないということだ。近所に親しい人間がいるわけでもなく、呼びかけたら引っかかったのは万年貧乏を囲っているこいつだけ。しかも自分のところはIHしかないから俺の家がいい、という。

 かくして週末の数日、ナス消費ついでに後輩の食事の面倒を見てやることになった。

 茄子ってどうやって食べるんだっけ。マーボーナスくらいしか浮かばないがなんとなく面倒で、ひとまず味噌汁に放り込むことにした。切ったら水に晒すことくらいは知っている。あとは、適当に煮たらどうにかなるだろう。

 そうしてできあがったのが、この灰色の液体である。

「俺が知ってる味噌汁はこんな色じゃない」

「ちょっとした手間らしいすよ。先輩んちは下処理ちゃんとしてたんすねえ」

 愛ですよ、とか言うから鼻から米が出そうになった。愛か。そうなんだろうか。

「明日は俺がつくりましょうか」

「たのむ」

 どうやら面倒を見てもらうのは俺のほうみたいだ。

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