ちょっとかわいいだけの女子大生が陰謀論者のアイドルに祭りage

青海老圭一

第1話 喜多村瑞穂の情報

 喜多村瑞穂は怒れる女子大生だった。西に虐げられる子供がいれば、行かずにTwitterのコメントを残し、東に生活保護の不正受給があれば、行かずにTwitterの複数アカウントを駆使して謝罪とアカ消しに追い込んだ。

 喜多村瑞穂は決して行動派ではなかった。だからこそ、情報収集にも余念がなかった。

 昨今、地球では奇妙な伝染病が流行っていた。巷では、動物が平時に持つウイルスが変化し、その結果が人類とはあまり仲良く出来ないような形質をとり、ゴールドウィン曰く移動の時代であるところを背景に、全世界に蔓延していったという説が支配的だった。

 一方で、アジアの大国の研究所から未知のウイルスが漏れたのが原因であるとか、むしろそれに拍車をかけるような動きすら見られたとか。いやいや実は世界の警察である超大国が意図的に蔓延させたもので、奴らの狙いはそれをアジアの大国の責任にすることで、巨額の賠償金をせしめて骨抜きにすることだとか。あるいは太平洋をまたいだドンパチで、停滞した経済状況を打破するという超大国のお得意の、いつものやり方であるとか。いずれの説はもっともらしく、特に超大国由来のものであるという説は、過去彼らが「手段のためなら目的を選ばない」蛮行で幾度となく自国の経済を回復させてきた実績がある、という主張は、独特のアンテナを不幸にも立ててしまっている人にはそれなりに納得感があったようだ。

 そして、その独特のアンテナは鬼太郎よろしく瑞穂にも立っていたのだ。


 しかし案ずるな、瑞穂は怒れる女子大生でもあったが、それなりの知能は持ち合わせていなかった。グローバルな話は、ついぞ理解することはなかったのだ。しかし当人は、そんな妄言には――それなりに興味はあったが――つきあっていられないとばかりに、自分の知識を棚上げにして、そのWEBブラウザから次々と新たな陰謀論を採掘していった。その作業は、放火魔が「次はどこにしようかな、天の神様の言・う・と・お・り……」と指差し地図を眺める様子によく似ている。


 そして瑞穂は――少なくとも彼女の中では――真実を突き止めたのだ! それは、伝染病なんか存在せず、ワクティンも日本政府の陰謀であるという説を! 


 それは不幸にも、という但し書きをのしを付けて飾ってもよいくらいの、振り切った陰謀論への傾倒であったと言わざるを得ない。

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