林檎を齧る子供と大人の境界線
忍野木しか
林檎を齧る子供と大人の境界線
良い悪い、全てを二択で分けられる世界。便利でつまらないそんな世を想像してみたことはないだろうか? 例えば本を読む事は良い事だとされれば、全ての人が同じ概念を持ち、世界中の誰もが活字を追う、そんな世界さ。
そんなSF的な世界観は想像しないだって? もっと単純に、法で縛られた人間の行動範囲に収まる事象。林檎を食べるのはダメだと、すぐさま禁林檎法が定められるような、そんな世界。
面倒だね? それこそSFの世界さ。禁林檎法の裏で林檎を求める庶民。密育林檎、密輸入林檎で巨万の富を得る悪党が牛耳る世界。便利でもないし、つまらなくもない世の中が想像できてしまったよ。おっと、こんな話がしたいのでは無かった。
世の中二択では分けられない事柄が多く存在する。法律で定められていようがいまいが関係ない。識者の定義した体制であろうと、人類が積み上げてきた叡智の結晶であろうと、議論の余地は沢山あるのさ。多少の欠陥はあっても機能し続けてきた資本主義。だからといって資本論が間違っていると誰が決められる? 民衆の蜂起を待たずして国が動いた結果の社会主義の失敗もまた、それが果たして間違いだったのか、永遠に議論の余地はあるのさ。別にマルクス主義者じゃあないぜ? て、おい、違うだろ、僕の中の僕。議論したいのは別の事柄だ。
法律を抜きにした場合の大人と子供の境界。
おっと、赤子と老人は抜きにしてくれ。人は子供として生まれ、大人として死んでいくわけだ。
さて、その境界はどこだろう? よく言われるのが、守られる存在が子供であり、守る存在が大人である、と。法律を抜きにした場合の境界の解釈はコレが多いのではないだろうか? 確かに分かりやすい。子供は大人の庇護の元に成長し、やがて子供を庇護する大人になると。
いやいや、ちょっと待て、僕。曖昧すぎやしないか? その解釈には例外が多すぎる。ならば成長期を終えてからが大人だという解釈の方が分かりやすいだろ?
例えば大人の庇護のない子はどうなるのか。この細長い国ではあまり見ないかもしれないが、世界には多く存在するだろう。彼らは大人なのかい?
例えば庇護する子のない大人は。庇護されながら庇護する者は。庇護の対象に庇護される人。庇護の対象を傷つける人。ペットに愛情を注ぐ子供は大人なのかい?
うるさいよ、僕、いや僕の中の君。せっかちなのは悪いことさ。いや、一概に悪いとは言えないか? おっと、話が逸れる。
僕はただ例を挙げただけであり、それが境界などといつ言った? ああ、長くなる。無駄話は悪いことかな?
さて、結論、という断言はこの議題の中では正しくないだろう。現在の僕の中の結論の一つ、とここまで曖昧にすれば文句はないかな?
視点、で考えれば良いのさ。
例えばお化けを怖がる子供、怖がらない大人との差はなんだい?
ええ? 怖がらない子供もいる? すごいね、お化けに立ち向かえる子か、いやはや、勇敢な子だ。
おい、ちょっと待て、僕の中の君。お化けが存在するかいなかは議論の対象外だし、それによく考えてみたまえ、その子はただの勇者ってわけじゃないかもしれないだろ? 客観的に物事を考えられる人なのかもしれない。
なぜお化けを怖がる? そもそもお化けってなんだよ? 魂って何処にある? 化学で解明されていない存在を、どう信じられる?
様々な角度から疑問を持って一見した事もない幽霊の存在を否定出来れば、恐怖心なんて消えちまうのさ。
大人と子供の境界を左右するのは認識であり視点だ、と僕は考える。主観的な世界では視点が一つに固定される。固定された視点は主観だけではなかなか動かせないだろう。物事をよく知るには、よく考えるには、客観性が必要となる。多角的な視点からこの世界が見えるようになった時、その人は大人になったと言えるのさ。
子供を庇護する大人には、子供の気持ちを理解する視点が必要となる。何処までも主観的な人に子供を育てるのは難しいだろう。生まれてきた子供は、先ず一つの視点で物事を見る。両親に囲まれた我が家が一つの世界となり、そこから学校に通って、友達、恋人の人柄を知って、挑戦して失敗して、家を出て仕事をして、と色々なものを見ながら多くの視点を作っていく。やがて客観的に物事を見られるようになった子供。やっとソイツは、ああ、自分は大人になったんだな、と気がつくわけさ。
どうだい、分かりやすいだろ? 大人と子供の境界は視点の違いさ。それは主観と客観で決まるってわけなんだ。
なに? 反論したいって? いいぜ、議論の余地はまだまだある。世の中二択で決められないことの方が多いからね?
え? じゃあ、決められることはなんだって?
そうだね、なんだろうか。例えば死は平等に訪れるとか、林檎は身体に良いとか、かな?
林檎を齧る子供と大人の境界線 忍野木しか @yura526
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