第6話 彼女の存在
「有先輩♪」
「何?」
「有先輩って…音葉先輩と仲良いって聞いたんですけど…」
「…音葉…先輩…?」
「あ、実は私、優月 音葉先輩の中学校の後輩になるんです」
「えっ?アイツの?へぇ〜…」
「私、音葉先輩と中学校が一緒で、私も先輩みたいになりたいって思ってて…先輩、可愛い系だし結構昔から男女問わず人気あって…」
「そうだったんだ」
《音葉が男女問わず人気?》
《可愛いのは認める》
《でも性格は問題ありだろう?…まあ…純粋さはあるけど…》
俺は、そう思いつつ話を彼女から聞く。
「そうなんです。特に学校の男の子からは人気あってモテてたんです。みんなが可愛い先輩って憧れの眼差しで見ていたんですけど……。…でも…変な噂が流れ以来…男の子達がそういう目で見るようになって…」
「見るようになって…何かあったの?」
「…それは…」
俺は音葉から聞いた話に繋がる気がした。
「…まあ…ちょっと…話は聞いてるけど…」
「えっ…!?…話…聞いているんですか?」
「うん。だって俺達、仲良しだから」
「…そうだったんですね…あの!恋愛感情とか生まれたりしないですよね?」
「えっ!?恋愛感情!?」
「…私…不安なんです…」
「えっ…?不安?」
「有先輩カッコイイし音葉先輩と仲が良いから…私…」
友達から付き合っているとはいえ彼女の言動には俺は違和感があった。
恋人として付き合っているなら分からない言葉。
俺の思いは現時点では正直恋愛感情はない。
過去の事も正直、彼女には話さなかった。
ただ、今は友達として今後付き合っていく上で好きになるかは分からないけど…好きになれなかったらごめんと、その思いだけは正直に彼女に伝え様子を見ているからだ。
そんな彼女とは、一人の異性の人間として友達として、一人の女の子として彼女に全て曝け出しても良いのだろうか?と……
正直、俺も人に言えない程、異性と付き合っていくのには抵抗がある。
だけど、アイツ…音葉だけは少しとはいえ異性に対する過去の事があり傷ついているし、不信感があるのは知ってるつもりだ。
お互いの傷を知ってるからこそ仲良く出来る事。
しかし彼女は初対面だ。
彼女が俺を好きだという事は知っている。
だからこそ彼女は恋人として付き合って欲しくて、そういう事を言っているのだろうか?
俺と恋人として本気で付き合いたくて本当の胸の思いを含め言っているのだろうか?
そんな事が脳裏に過る。
彼女の本心は分からない。
もしそうだとしても向き合おうとしている俺の心はブレーキが掛かってしまう。
「君が俺の事を好きなのに裏切ると思う?」
「…そうですよね…」
「君が俺を好きだって言ってて、友達からって言うのも含め、俺は君を好きになるかは分からないけどって事も伝えている。君はそれでも良いって…向き合おうと俺自身もしているつもりだけど…」
俺は彼女にそう伝えたものの良かったのだろうか?と、一瞬考えた。
「…ごめんなさい…女の子苦手だって言ってたのに頑張って向き合おうってしてくれてるんですよね…」
彼女は納得してくれた。
正直、これで良いのか?
悪い気もするが、他に言葉が見つからない。
本心とは言えないけど、本音を彼女に伝える。
「ごめんな…梨砂ちゃんは俺の事が好きなのに…」
「いいえ…すみません…」
そんなある日の放課後。
〜 八吹 有 side 〜
「あれ?八吹君、音葉いなかった?」
音葉の親友の綿辺が俺に尋ねた。
どうやら二人は別行動だったようだ。
「いや、見てないけど」
「そうか…待っててって言ったんだけど…音葉も待ってるって言ってたんだけど…」
「バックあるしトイレとか?」
俺は音葉のスクールバックがある事は知っていたが、勿論、綿辺のスクールバックがある事も知っていた。
二人は仲良いし、てっきり二人は一緒に行動しているとばかり思っていたのだ。
俺が来た時点では既にいなかったからだ。
俺はすぐに戻って来るだろうと思い音葉の前の席に腰をおろし携帯を弄って待機していた。
話し相手になって音葉をいつものノリで弄ってやろうと考えていたのだ。
勿論、一緒に帰るつもりだったのもある。
「…トイレ…そうかな…?」
「音葉ちゃんなら女の子に呼ばれてったよ」
クラスの女子生徒が言った。
「女の子?」と、綿辺。
「うん。音葉ちゃんと、身長はそう変わらない感じの女の子で、どちらかというと音葉ちゃんよりは小柄だったかも?何か音葉ちゃんの事を知っている感じだったよ」
「音葉を知ってる?」
俺も口を開き疑問に思った。
「誰だろう…?ねえ、それいつ?」
綿辺は尋ねた。
「八吹君が来る前だったかな?」
「俺が?」
「うん」
来る前?
入れ違いだったのだろう。
もう一足早く来れば確認取れたのかもしれない。
「そうか…ありがとう…」
「ううん」
「…何もなければ良いんだけど…」
「大丈夫だろう?」
「…うん…」
綿辺は、かなり心配しているようにも伺えた。
親友だから心配しているのだろう。
親友…?
つまり音葉と付き合いが長い。
と、なれば…中学の時の過去の話…もしかして知ってる…?
「なあ。綿辺」
「…何?」
「アイツ…中学の時…人気あったって聞いたんだけど」
「えっ?あ、うん…。男女問わず人気あったよ。…だけど…変な噂が流れて…」
「…変な噂…?…やっぱり…」
「えっ…?」
「…いや…アイツの過去…本人から聞いて…つい最近も一人の女子生徒から聞いて…」
「音葉、八吹君に話したんだ。それよりも、その一人の女子生徒って?私、そっちが気になるんだけど」
「あー、俺、今、友達から付き合ってる子いて…まあ…付き合っているとはいえ俺も色々あって…それを踏まえた上で付き合っているんだけど…」
「その子の名前は?」
「えっ?」
「付き合っているっていう女の子!同じ学校?」
「あ、ああ。1年生の宗上 梨砂って子だけど…」
「…宗上…梨砂…?…まさか…音葉の事…呼び出したのって…」
「えっ?待てよ!どうして彼女が音葉を?」
「分からないけど…そうとしか…私、探して…」
俺は言い終える前に言葉を遮るように綿辺を引き止めた。
「待てよ!探すって何処を?」
「そんなの屋上とか…ありきたりな場所でしょう?学校の敷地内にいるんだろうし」
「探したいのは分かるけど入れ違いなるかもしれないのに辞め…」
「駄目だよ!何かあったら遅いんだよ!彼女は…!宗上 梨砂って子は何考えてるのか分からない危険な人物なのっ!」
綿辺が俺が言い終える前に言葉を遮った。
「…えっ…!?」
耳を疑った。
危険な人物?
つまりそれってヤバイ奴って事?
「…私も詳しい話は聞いた事ないけど…中学の時から良い話は聞いてなくて…彼女の噂は現実に事実あっている話だから」
「…………………」
「…ごめん…八吹君…付き合っているのに…」
「いや…気にしなくて良い。むしろ聞けて良かった。彼女、調べた方が良いかもしれない」
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