第11話 焦せる

王太子殿下の考えていることがわからない。

もしかして、ずっと前から魔物と通じていたのだろうか。

王太子という立場で反乱を起こし、どこに得があるのだろうか。

一人だけ姿が見えなかったのは、魔物とともに行動していたから?

通路の先で皆が亡くなったのは、彼の裏切りのせいということになる。

待ち伏せできたのは、隠し通路を知っていたから。

疑問は、何故祖国を裏切ったのかだけれど、わかるはずがないわ。

彼は民たちにも好かれていたし、弟妹にも懐かれていた。国王陛下も信頼していたし、お父様も彼の世は安泰だと言っていた。2度ほどお会いしたこともあるけど、不審な人では無かったと思う。

考え込む私にシルビア様は、話を続けた。

「それでね、他の壊滅に追い込まれた国々も似た様な状況なのよ。それで今度精霊王が集まる会合があるのだけれど、他国の話も聞けると思うから一緒に行きましょう?」

「はっ?一緒にですか?精霊王様方の会合に?私が?」

突然の誘いに、焦って声を荒らげてしまう。

「そうよ?貴女と似た様な境遇の子を、火の精霊王が保護しているのですって。その子は火の精霊王が見守っていた国の王女だということだけれど。会ってみない?」

「火の精霊王の加護がある国・・・ムンダイ国ですか?確かエレノーラ様と言う同い年の王女様がいたと記憶しています。」

「そうそう、そこよ。そこも突然、魔物が湧き出して国土を蹂躙。命からがら逃げ出した所を運よく保護できたと言っていたわ。そこの王子、えっとエレノーラさんのお兄さんに当たる人がマルレイ国の王子と同じように消えて魔物を連れて戻ってきたそうよ。」

身振り手振りで状況を説明してくれる。少し可愛らしいと思ってしまうんです!なんて、言えないので答えることにした。

「お会いしたいです。でも、精霊王様方が集まるところに伺うなんて、恐れ多いです。」

「いーんじゃない?別に貴女を取って食ったりしないわよ?人族を愛おしいと思わなければ加護なんて与えないもの、私たち。」

そりゃ、精霊は人が好きなんだと聞いたことはあるけど、希望的観測に過ぎなかったんです。私の知っている常識では。

「それに、その子は体を鍛えて国を取り戻すのだと躍起になっているそうよ。ちょっと面白そうでしょ?火の精霊王、レミネスと言うのだけれど、アレがお転婆具合が可愛くて仕方ないなんて言うもんだから、見てみたいのよね。貴女が来るなら彼女も来るって言ったらしいんだもの・・・ね?」

他の精霊王様の真名をぺろっと言ってしまうのもどうかと思うけど、アレ呼ばわりもいいのだろうか?

そして、真相は自分が見てみたいだけという・・・最後の悩殺ものの「ね?」がダメ押しなのは、絶対に確信犯だわ・・・

「わたりました。ご一緒させていただきます。よろしくお願いします。」

半ば諦めて同行を決めた。ペコっと下げた頭を戻すと、満面の笑みのシルビア様と渋い顔のセイレンが対照的で吹き出してしまった。


会合は、人族時間で3日後らしく、爪や髪の手入れ・服の仕立て・精霊式作法などセイレンが教育係よろしく甲斐甲斐しくも厳しく指導して手伝ってくれた。

仕立てられた服は、すっきりとした意匠で裾が軽やかに広がっていた。生地が素晴らしく滑らかでずっと触っていたくなるほどだった。小さな声で費用の支払いができないと言ったら、大笑いされた。曰く、人族のお子様からそんなものを受けるつもりはないし、やりたくてやっているのだから、喜んで着るだけでお礼になっているとの事。嬉しくて、抱き着きたくなったが我慢して、最上の笑顔でお礼を言った。

3日はあっという間に過ぎて、会合の日が来る。てっきり馬車か何かで移動だと思っていた。相手がほぼ全員精霊だと忘れていた。どうやって行くの?と真顔で聞いた私を、哀れな子供を見る目で見ながらセイランが転移魔方陣を地面からほんの少しだけ浮かび上がらせた。

魔力を含んで光り始めた魔方陣に入った瞬間に、景色がガラッと変わってどこかの王国の会議室のような場所に出る。きっと今までにマルレイ国で精霊の行う転移なんて体験した者は私ぐらいだろう。本当に何の違和感もなく、部屋に入って出るように転移が終わっていた。

会議室には、光り輝く存在が充満していて、私から見たらある意味で恐怖だった。


「アナ、こっちよ。もうみんないるわ。紹介するわね。」

シルビア様が手を引いて進んでいく。一歩ごとに緊張で立ち止まりたくなる。

行きたくないと腰が引けてしまう。それに反して、引っ張るシルビア様の力が強い。

精霊王様方と思わしき3人の美人と、男の子に間違えてしまいそうな短髪の少女が一人。精霊王様方の側近の精霊様と思われる人がセイランを含めて4人。私とシルビア様の合計10人。

因みに、あとで聞いたが側近の精霊様方は、人族が大精霊と呼ぶ存在だった。だが、本人たちは精霊の格付けに一切興味がなく、ちょっと使える精霊だから羨ましいでしょ?くらいの事らしい。ちょっと使えるとかの範疇ではありませんけども!と、大声で訴えたくなる。精霊七不思議に加えたくなる案件だと思うのだけれど。


精霊王様方と私と少女は円形の机の席に着き、大精霊様たちは各自仕える精霊王様方の右後ろに立っていた。どこからともなく茶器とお菓子が出てきて、何度見ていても驚いてしまう。

少女も同じらしく、私と少女の反応を見て精霊王様方はにこやかだった。

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