漫才「おまるこまる」
オダ 暁
季節外れの新春編
女二人、威勢よく壇上に登場。
おまる「皆さん、あけましておめでとさん。おまるでーす」
こまる「こまるでーす。本日はわざわざお越しいただきまして、おおきに」
両者、客の顔を見渡して深く一礼する。
おまる「それはそうと正月やでえ。年が明けて、ホンマめでたいこっちゃ」
こまる「ああ、そういや正月がきたんやな」
おまる「来ましたでえ~でもな、正月はどこも混むさかい、家でおせちや雑煮たらふく食って炬燵でミカンでも食べながらテレビ見て過ごすんが最高や」
こまる「食うばっかりやな」
おまる「いんや、そんなことあらへんで。初詣にはちゃんと出掛けて神様に拝むし、賽銭も今年は奮発したで」
こまる「幾らや」
おまる「十円や、ふだん一円やからなんと十倍やで。すごいやろ」
こまる「・・・・・」
おまる「なんちゅうても、めでたい正月やからな」
こまる「なんで正月がめでたいんや」
おまる「ハ?変な質問やなあ、正月はめでたいん当たり前や。昔から、そう決まっとるわ」
こまる「だから何でや」
おまる「あんたも、わからん人やなあ。そうかて正月いうんは年の始めやで。無事に新しい年を迎えれるいうことは素晴らしいことやないか」
こまる「ほ~なるほど。でも終わりよければ全てよしとも言うで。と言うことは、始めより終わりの方が大事なんちゃうんか。正月より大晦日が勝負いうこっちゃろ?つまり、めでたい正月より、めでたい大晦日の方が上っちゅうことや」
おまる「話が複雑になってきたなあ。よっしゃわかった、説明したるわ。そもそもな、人生ちゅうもんはギャンブルと一緒でな、下駄をはくまでわからん、棺桶に入るまで勝負はつかんもんなんや」
こまる「棺桶入って生き返った人もおるで」
おまる「じゃあ、火葬場で焼かれるまでに変えるわ。例えなんやから、いちいち話のこし折らんといてえな。でな、何度もくじけて失敗を繰り返すんが人間や。そのたびに落ちこんどったらキリない。そのたびに出直すんや、再出発や、だから人生は素晴らしいんや」
こまる「さいでっか、えらい実感こもっとるな」
おまる「そりゃそうや、わて去年は最悪やったわ。会社の男にちょっと迫っただけやのに、ストーカーや言うて訴えられて、おかげでクビや。ストレスで痔が悪化してもたわ」
こまる「た、たいへんやったんやな~(その男はん・・)」
おまる「そんだけであらへん。暇やから儲けよう思て行ったパチンコが連敗つづきでな。借金取りが家まできょって、もう年末に夜逃げしてやったわ」
こまる「ホンマかいな。で・・今どこにいてるん?」
おまる「すぐそこの阪神中央公園や」
こまる「公園!」
おまる「そうなんや。同じような境遇の人間がようけおってな、女もけっこういてな。わけ話したらダンボールで寝床作ってくれたり飯分けてくれたりして皆親切やで」
こまる「じゃあ、おせちや雑煮やミカン食って過ごしたいうんは・・」
おまる「初夢で見たさかい言うてみただけや」
こまる「ほんで今何でここにおるん?」
おまる「・・アドリブきかん質問せんといてえな。とにかく、わては他人の情けに助けられたんや、またフンドシ締め直してがんばるで」
こまる「あんたフンドシしとんかいな、何色や?」
おまる「・・わからん人やな、さっきから物の例えや言うてるやないか。それより、あんたこそ正月はどないやん?」
こまる「わてか。わてはな・・聞いて驚くなよ」
おまる「何や、けったいなことでもあったんかい」
こまる「あったわい」
おまる「何や、じらさんで早よう言うてみ」
こまる「正月はな、正月はなんと、わての誕生日なんや」
おまる「ほお~誕生日。ちゅうことは、超大台に乗ったんかい、そりゃめでたい」
こまる「亭主もどっか逃げてしもて晴れて独り身や。もっとええ男つかまえたる」
おまる「その意気や、お互い励ましあって元気に生きていきまひょ。あ、そういえば・・公園に、あんたの亭主によう似た男がおるで。人違いやろうと思とったけど、それにしてはえらい似とったなあ。カッパそっくりのてっぺんハゲなとことか・・」
こまる「ホンマか?どこ、どこや、すぐ教えてんか。連れ戻して、きつうしばいたるわ」
おまる「おお怖。あんたと一緒より公園におる方が安全なんやな、ダンナさん可哀相に」
こまる「正月からイケズいわんといてや、バチあたるで。なあ、お仕置きしたろか?」
逃げようとするおまるを、こまるは執拗に追っ掛ける。
「では皆さん、良いお正月を」
と手を振りつつ、壇から二人退場。
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