異世界任侠魔王

ジン

第0話 幼き頃の記憶

ふと目を開けると何故か両目が見える、不思議に思い立ち上がると何時もよりも天井が高い…何があったかと首を捻るともう二十年程も聞いていない声が聞こえた…それも普通の話し声ではなくすすり泣く泣き声だった、その声を聞き舌打ちをした所で男は目を覚ました。

「…チッ嫌なもん思い出させやがる」と言うと男は左手を左目の前へ持っていくと見えない、当然といえば当然だ、少年時代に潰されてから左目は使えていない…妹を庇い、子供に暴力を振るう事しか出来ない情けない大人に潰されてからは隻眼なのだから今見た夢はその潰された日の朝だっただろうか…なんにせよ子供の頃の記憶に良かった部分など何一つない。


男はそのままベッドから上半身を起こすとタバコをくわえて火をつける。紫煙が部屋の中をくねりながら上がっていく。そして前髪をかきあげる。

窓から外を見るとまだ暗く、星が空で輝いていた。空を眺めているともはや機能も何もしていない左目にズキン、という痛みが走る。

「…あのクソバカ…近くに居やがるのか?」

と言うと右手で左まぶたの傷をなぞって触る、そうすると痛みが消え、代わりに衣擦れの音が微かに聞こえる。男は傭兵をしており、今はとある国と共に戦争を行っており、最前線で戦っており、つい最近の敵国の防御の要と言われる砦を攻略し、男が居なくても最早戦争には勝った物だと口々に傭兵達は良い、勝利に導いた自分たちへの恩給はかなり貰えるぞ、と喜びあっていた、その馬鹿馬鹿しい傭兵達を見て男は鼻で笑い、戦場を後にした、どうせこの国も他と同じだろう、そう男は思いながら宿に戻り、ベッドに入っていた。


それを思い出し、男はタバコを握りつぶし、廊下に居るであろう人数を音から判断しようと耳をすます。足音は三人分、そして話し声が微かに聞こえる。時折革製の物がなにか物に当たるような音が聞こえる。男はこれまで生きてきた経験でこの状況ならどうなるか、を判断し小さく溜息をつき、舌打ちをする。もうすぐこの3人は男の部屋に入ってくるだろう、男はベッドから音もなく立ち上がるとそのまま入口から見えないように姿を隠し、息を潜める。


すると扉が静かに開かれ、3人が男の泊まっている部屋に入ってくる。3人とも顔を隠している。歩き方、身長から見て男が2人、女が1人。その姿を見て男はまたか、と思い、そのまま息を殺した続ける。すると一人の男がナイフを手に取ると先程まで男が寝ていたベットにナイフを突き立てる。するとすぐにナイフを持った男が「…居ない!?バレていたか!?」と騒ぎ始める。


そして男は物陰から音もなく近くに居た男に向けて手を伸ばし、そのまま首をへし折る。そしてそのまま「…やっぱりな、どうせ来ると思ってたぜ?」と笑う。その姿を見て女は息を飲み、ナイフを持った男は「…クラウド、あんた自分が何をしたか分かってるのか?」と静かに言う。そしてクラウドと呼ばれた身長3m弱、筋骨隆々で全身に大小様々な刃傷や矢傷が刻まれている男は「先に手を出してきたのはてめぇらだろ?そしてどうせ依頼主はこの国の国王、違うか?」と男を睨みつけながら言う。すると男は何も言わず、クラウドへ向けてナイフを突き立てようと肉薄してくる。クラウドはその男の腕を蹴りあげる、すると男はナイフを落とし、腕を抑える。

男は腕を抑えたまま、クラウドを蹴りあげる。靴に仕込みナイフを仕込んでいたようでクラウドへ当たる寸前で飛び出してくる。クラウドは男の足を掴み、持ち上げるとそのまま何度も何度も地面に叩きつける、叩きつけられる度にガン、やグチャ、という音が響く。数度は男も痛みから声をあげるが6度目からはピクピクと動くのみで声を上げることは無かった。

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