或る少女のサバイバル

多賀 夢(元・みきてぃ)

中学一年生 夏

プロローグ

 六年前。私の兄・輝人が消えた。


 事件。

 事故。

 自殺。

 他殺。


 大人達は、あらゆる可能性を考えた。

 父と母は兄を探した。他の大人達も一緒に探してくれた。私は弟の康人と二人で、家に取り残されていた。

 

 そのうち、父が兄を殺したという噂が立った。それまで協力してくれていた大人達は、潮が引くようにいなくなった。

 代わりに、家には落書きがされ、ポストには怪文書が放り込まれるようになった。怪しい団体が盛んに勧誘に来るようになった。

 

 父は、兄を探すのを止めた。

 母は、家にこもって泣き続けた。


 いつしか両親は、私を『長男代理』と呼ぶようになった。私は望まれるがまま、長男として相応しいよう振舞うようになった。


 だけど私は、兄のほとんどを覚えていない。唯一覚えているのは、河原で厳しい顔を対岸に向ける横顔だけ。

 私は、その横顔に相応しい【男】にならねばならない。【女】という性別を捨てて。

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