第48.5話 師匠と先輩の隠し事④

「そっか~。そんなことがあったんだね~」


 焦る僕を何度も何度もなだめながら、先輩は、僕の説明を聞いてくれた。


 かなりの時間を費やして、やっとすべての状況を説明し終える。本当なら、すぐにでも先輩と協力して師匠のことを探したかったのだが、先輩が、先に私に説明するようにと、走り出そうとする僕を制したのだ。


「わ、分かってくれましたか?」


「そうだね~。全部、分かったよ~」


「じゃ、じゃあ、早く師匠を探しに行かないと。まずは、二人で手分けして……」


「あ、その必要はないよ~」


 先輩の言葉に、僕は耳を疑った。


「……な、何言ってるんですか?」


「だって、私、師匠ちゃんのいる場所、分かるからね~」


「……え!?」


 体に電流が走るような衝撃。一瞬、先輩が冗談を言っているのかもと疑ったが、こんな時に冗談を言うような人ではない。先輩に出会って約八か月。それくらいのことは分かっているつもりだ。


「さて、師匠ちゃんの所に行く前に~。後輩ちゃん」


「な、何ですか?」


「一つ、約束してほしいな~」


 いつものようなのほほんとした声からは想像できないほどの真剣な表情。そして、鋭い目つき。僕の体が、蛇に睨まれた蛙のようにピシリと硬直する。


「今から何があっても、何を知っても、師匠ちゃんのことだけは、絶対に嫌わないでほしいんだ~」


「……へ?」


「約束できる~?」


「……約束も何も、僕が師匠のこと嫌ったりなんて、絶対にありえません」


 それだけは、確信を持って言える。僕が師匠のことを嫌う未来なんて、全く想像できない。


 それにしても、「師匠ちゃんのことだけは」って、一体どういう……。その言い方だと、他の誰かのことは嫌っていいってことに……。


 僕の答えに安心したのか、先輩は、優しく微笑んだ。そして、クルリと僕に背を向ける。


「さ、師匠ちゃん……いや、詩音ちゃんの所にレッツゴ~」


 先輩の口から語られた名前。それは、師匠の名前だった。どうして、先輩が師匠の呼び方を変えたのか。いや、変えたというのは適切ではないのかもしれない。きっと、先輩は、呼び方を元に戻しただけなのだろう。


「……先輩と師匠って、昔からの知り合いだったんですか?」


 僕は、前を歩く先輩の背中に向かってそう尋ねる。少なくとも、僕の前では、師匠も先輩も一切そんな話をしたことがない。むしろ、以前、師匠によって、この考えは勘違いであると否定されたばかりだ。だが、先ほど、先輩の口から放たれた言葉の数々は、師匠と先輩が実は知り合いであったと証明するには余りあるものだった。


 僕の言葉に、先輩の肩が、ピクリと上下に動く。しばらくの沈黙の後、先輩は、僕の方を振り返らずに答えた。


「私、詩音ちゃんの『元』先輩なんだ~」

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