第27話
夏休み。師匠との帰り道。コミュニティーセンターから駅までの道のり。
「……あ」
突然、師匠が何かに気が付いたようにそう言った。
師匠の視線の先には、体操服を着た短髪の女子生徒。僕たちと同じように、駅に向かって歩いている。軽くスキップをしているような足取り。よほど嬉しいことがあったに違いない。
「妹さん!」
僕は、彼女に向かって声をかけた。
僕の声に、彼女がこちらに振り向く。僕より少しだけ低い身長。ショートボブの黒髪。その顔は、師匠にとてもよく似ていた。当然だ。だって彼女は、師匠の妹なのだから。
「姉さんと……で、ででで弟子君!?」
妹さんは、僕たちの姿を見て目を丸くした。そのまま、スタスタと小走りで僕たちのもとにやって来る。
「こ、ここここんな所で会うなんて、き、奇遇ですね」
「……慌てすぎじゃない?」
師匠が、ハアと溜息を吐く。いかにも呆れているといった様子だ。
「だ、だって、弟子君と会えるなんて思ってもみなかったし……」
少し顔を赤らめながら、手をもじもじと動かす妹さん。そういえば、前に偶然会った時もこんな反応をしていたっけ。
「妹さんは、こんなところで何してるの? もしかして、陸上部の大会?」
「あ、はい。今日はこっちで大会があったんです」
「そうなんだ。どうだったの、結果?」
「えっと……い、一応、短距離走で一位になれました」
「え、すごい! おめでとう!」
僕は、妹さんに向かってパチパチと拍手をした。一応、師匠から、妹さんはかなりの実力者であると聞いていたが、ここまでとは……。
「あ、ありがとうございます。……エㇸへ、褒められちゃった」
顔を赤らめてはにかむ妹さん。
「じゃあ、何かお祝いしないと」
「お、お祝いですか?」
「そうそう。……あ、でも、僕、あんまりお金は持ってないから、高いもの買うとかは無理だけど」
僕の提案に、妹さんは、顎に手を当ててじっと何かを考えていた。こういう仕草が本当に師匠そっくりだ。
しばらくして、妹さんはゆっくりと口を開いた。
「えっと……じゃあ、前みたいに、弟子君とデ……じゃなくて、いろんな所行きたい……です」
「……それだけでいいの?」
「は、はい! むしろ、それがいいです!」
妹さんが、先ほどよりも大きな声でそう答える。その目は、キラキラと輝いているように見えた。
……別に、どこか一緒に行くくらい、いつでも付き合うのになあ。
「分かった。じゃあ、都合のいい日、教えてほしいな」
「い、いいんですか!? やった!」
目の前で、ピョンピョンと飛び跳ねる妹さん。そんなに喜ばれてしまうと、少し恐縮してしまう。
「……どうしてこんなに積極的になれるんだろ」
不意に、師匠が、ボソリとそう呟くのが聞こえた。
「師匠? どうかしましたか?」
「……別に」
僕から顔をプイッと背ける師匠。その声は、どことなく不機嫌そうだった。
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