第22話
師匠との帰り道。学校から駅までの道のり。
「ゴホッ、ゴホッ」
「……大丈夫?」
「だ、だいじょう、ゴホッ」
「……大丈夫じゃないみたいだね」
そう言って、心配そうに僕を見る師匠。
昨日、僕は、熱が三十八度まで出てしまい、一日学校を休んで寝込んでいた。今日は熱がなかったため登校したが、どうにも咳が止まらない。授業中も、部活動中も、頻繁に咳をしてしまっている。先輩にも、「後輩ちゃん、大丈夫~?」と何度も言われてしまった。
「……そんなに咳がひどいなら、もう一日だけでも休んだ方かよかったんじゃない?」
「そうですけど……ゴホッ」」
師匠の言うことももっともだ。こんなに心配させてしまうくらいなら、もう一日休むべきだったと少し後悔している。だが、僕は、極力学校を休むことはしたくないのだ。なぜなら……
「学校休んじゃうと、師匠に会えないじゃないですか」
学校を休んでしまった昨日、何度、師匠に会いたいと思っただろうか。何度、師匠と話がしたいと思っただろうか。僕にとって、それほど師匠は大切な人なのだ。
「…………」
ビシッ
「痛!」
「…………」
ビシッ、ビシッ
「い、痛いです!」
まさか、師匠にデコピンをされるとは思っていなかった。しかも連続で。
優しくデコピンされているため、実際はそれほど痛くはないのだが、つい条件反射的に「痛い」と言ってしまった。
「し、師匠?」
「……君が私に会いたいと思ってくれるのは嬉しいけど、無理して心配させるのはどうかと思うよ」
いつものような穏やかな表情。ゆっくりとした優しい口調。それは、まるで子供に言い聞かせるような母親のような姿だった。
「……すいません。……ゴホッ」
「いいよ。今日は、早く寝て、ちゃんと直すこと」
「……はい」
「よろしい」
そう言って、師匠は、満足そうに頷いた。
ゆっくりと歩みを進める僕と師匠。気のせいだろうか。いつもよりも、師匠の歩く速度が遅くなっている気がする。もしかしたら、僕に気を使ってくれているのかもしれない。
「ゴホッ、ゴホッ」
相変わらず、咳が出続ける僕。師匠の言う通り、今日は早く寝ることにしよう。師匠にも、先輩にも、これ以上心配をかけてしまうのはよくない。明日は、全快していないと。
「『学校休んじゃうと、師匠に会えないじゃないですか』……ね。……ふふ」
「ゴホッ、ゴホッ。師匠、何か言いましたか?」
先ほど、師匠が何かを呟いたような気がした。だが、咳のせいでよく聞こえなかった。
「……別に、何も言ってないよ」
そう答える師匠の顔は、ほんの少し嬉しそうだった。
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