第10話 お題「空」
アルファポリス、カクヨムで小説を投稿なさっている天野蒼空さんの企画に参加させていただきました。
天野蒼空さん
→アルファポリス https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/422973631
カクヨム https://kakuyomu.jp/users/soranoiro-777
師匠との帰り道。学校から駅までの道のり。
「師匠! あれ、見てください!」
そう言って、雨上がりの空を、僕は指差す。
僕の言葉につられるように、師匠は空を見上げた。
夕焼けに染まった空。そこに広がるのは、色鮮やかで大きな虹。まるで、空一面が大きなキャンバスのようだった。
「綺麗ですね」
「…………そうだね」
空を見上げたまま、言葉を交わす僕と師匠。
どうしてだろうか。師匠の反応に少しの違和感を感じてしまった。
ちらりと師匠の方に視線を向ける。僕の目に映るのは、複雑な表情をした師匠の顔。
「師匠、どうかしましたか?」
心配になり、声をかける。
師匠は、少しの間黙っていたが、やがて、空を見上げながらゆっくりと言葉を紡いだ。
「いや、ごめんね。少し考え事をしてしまったよ。……私は、あんなふうには成れないなって」
「あんなふうに?」
「そう。あんなカラフルな空みたいには……ね」
寂しそうな師匠の声。その姿は、まるで、遠い昔を思い出しているかのようだった。
師匠の紺色の制服が、風に乗ってひらひらと揺れる。
師匠の過去に何があって、今、師匠は何を思っているのか。僕は、全く知らない。だからこそ、師匠が何を言いたいのか、僕には分からない。
でも、僕は、ここで何かを言わなければならない。だって、僕は、師匠の弟子なのだから。
「……いいんじゃないですか? それでも」
「……え?」
「カラフルじゃなくたって、いいんじゃないですか? 師匠は、師匠なんですから。それに……」
きっと、今から言うことは、的外れ以外の何物でもないのだろう。なぜ、こんなことを思いついてしまったのか、自分でも分からない。でも、ここでこれを言うことは最善手だと、僕の直感が告げていた。
「僕、師匠の制服姿、好きですよ。カラフルってわけじゃないですけど、清楚って感じがして。何というか……綺麗です」
ぴしりという音が聞こえた気がした。驚きの表情を僕に向ける師匠。その顔が、みるみる赤く染まっていく。いや、師匠だけではない。おそらく、僕の顔も、恥ずかしさで赤く染まっているに違いない。
「ま、また君は、平気でそんなことを……」
ぼそぼそと呟く師匠。
「あ、あはは。すいません。つい……」
妙な沈黙が流れる。だが、嫌な沈黙ではなかった。
「……行こうか」
「……はい」
僕たちは、再び歩き出す。空一面のキャンバスの下を。先ほどよりも、ゆっくりと。お互いに歩調を合わせながら。
ふと、師匠が小さく何かを囁いた。全てを聞き取ることはできなかったけれど、最後の一言だけは聞き取ることができた。
「……ありがとう」
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