島根 ②

『ここは多少は魔素が濃くなっています』


 そうだね、僕にもわかるよ。


 ここは島根県大田市。

 石見銀山跡。坑道の中。

 坑道とは言わず、間歩と呼ぶらしい。


 その中に、魔素が溜まっている。

 ものすごく濃いと言うわけではないが、日本にしては魔素が多い。

 ここから取れる銀は、魔素が含まれているのだろうか。


 ここの魔素の濃さでは、聖剣が作れるほどではない。

 だが、島根の地は日本の中でも魔素が多いのだろうか。


 どれ、この近くに銀のアクセサリーのお店があったから見ていこう。


 その後は、勇者との待ち合わせ。

 勇者から、何らかの手がかりがもらえるといいんだけどな。






 待ち合わせ場所は、島根県出雲市。


 出雲大社の境内。

 大きな鳥居の前で待っていると、向こうから勇者が歩いてくる。

 賢者の姿に気が付くと、勇者は走って来た。


 賢者の側まで駆けてくる勇者。

 そして、手を上げて・・・



 賢者に向かって、殴りかかって来た。

 余裕でよける、賢者。


「あんた、何てことしてくれるのよ!!」

「え?ここで待ち合わせをお願いしただけだけど?」

「あれは、お願いじゃないわよ!脅迫よ!」


 ゼイゼイと荒い息をしながら睨んでくる勇者。


「え~?心外だなぁ・・・丁重にお願いしただけじゃない」

「だったら、スマホにかけてくればいいじゃない!なんで学校に電話してくんのよ!

 しかも、何度もかけてきたうえに、あることない事言って!!」

「え~、嘘は言っていないよ?」


 賢者は、ニコニコと笑いながら言う。


「まぁ、いいわ。で、何のようなの?こんなところまで来させて」

「電話で話した通り、草薙剣を探してたんだけど。大山の頂上にあったらしいところまでは分かったんだ。でも、その後の手がかりがなくってね」


 勇者はため息をついた。


「だいたい、何百年も日本中が探し回っても見つからないのよ?もうこの世界にはないんじゃないの?」

「この世界にない?」

「伝説では、竜宮城に戻ったとか元の世界に戻ったとか・・・。だから、探しても無駄でしょうね」

 賢者は考え込む・・・

「元の世界・・・・、という事は異世界?」

「それは分からないけどね」

 賢者は、勇者の眼を見て言った。

「という事は、勇者がいなくても異世界に行く方法があるってこと?」


 パッと、勇者は口を押さえる。

 どうやら、秘密に関することのようだ。


「知っているなら教えてよ。聖剣以外にも異世界に行く方法があるんじゃないの?」


 勇者は、苦虫を噛み潰したような顔をする。


「ただの伝説よ。それに、あなたのいた世界に戻れるかはわからないわ」

「それでもいいから」


「伝説の一つでは・・・黄泉比良坂を通って、黄泉の国に行ったとの話があるわ」

「黄泉の国?」

「そう、もともと、スサノオノミコがいたというところで、大国主命が一時期身をひそめたと言われる国ね・・・根の国と呼ばれているわ」

「ネノ国!?」


 賢者は驚いて、勇者の両肩をつかんだ。

 困惑する勇者。



 賢者のいた世界。

 その世界での古代の呼び名は・・・ネノと呼ばれていたのであった。



「それで、どうやったらいける?黄泉比良坂ってどこにあるの!?」


 興奮して問い詰める賢者。

 勇者は戸惑いながら言った。


「あ・・・あくまで伝説よ? 松江市東出雲町にあるって話よ・・・」

「そっか!ありがと!!行って見るよ!」


 賢者は勇者を放し、去っていこうとした。

 その賢者に勇者は言った。


「あなた、バチカンの部隊を倒したそうね?バチカンは本気になって、大勢日本に来たそうよ。せいぜい気を付けたほうがいいわね」


「うん、ありがと!!」


 笑顔の賢者。

 じっとしていられなくなったのか、走って行ってしまった。


 



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