島根 ①

「見事な刀だね・・・」


『見事な刀ですが、聖剣ではありません』


 ここは島根県仁多郡奥出雲町にある博物館。 

 たたら製鉄と刀剣が展示されている。


 島根県の山間部では古来よりたたら製鉄が行われているとのことだった。

 そのため、賢者はあちこちの施設を見て回った。


 だが、聖剣の製作ができるほどの魔素は含まれているようでは無かった。


「やはり、そう簡単にはいかないかぁ・・」


 手詰まりである。

 あと、可能性としては2~3の方法しか残っていない。


 そのうち、無難な方法は一つだけ。

 勇者から情報を入手するというもの。


「だけどなぁ・・・望み薄そうなんだよなぁ」


 一応、勇者とは待ち合わせをしている。

 相手は学生。平日には会うことはできない。


 約束の日は次の日曜日。あと3日ある。

 それまでは、あちこちを当てもなく探し回ろうと思っていた。





 一方、そのころ異世界では、将軍はある場所を訪ねていた。

 九州のフクオカ。魔法研究所に魔法使いに来ていた。



「だから、伝承でも何でもいいのだ。長命のエルフならば、何か知っているだろう」

 冷静な声。無表情に魔法使いに質問している将軍。


 だが、その手に持っているのは、大鎌になった小狐丸。

 魔法使いの首に小狐丸を押し当てながら、聞いているのである。


「え・・・あはは・・・これどけてもらえないでしょうか・・・?」

「で、異世界に行く方法について知っていることを話す気になったかな?」

「ええ・・・・・・何もないですよ・・・」

「そのような魔法があるとか、何かあるだろう?」

「でも・・・でも・・聞いたことないですから・・・・・あ・・」

「何か思う出したかな?」

 にっこりと笑う将軍。だが、鎌を持つ手に力が更に入った。


「え・・・と、異世界じゃないんですけど・・・ただの伝説ですよ?だから、間違ってても殺さないでくださいね・・・・?」

「ほほう・・それで、どんな伝説なのかな?」

「ええと・・・ですね。死後の世界に通じる道があるって伝説があるんです。」

「死後の世界?」


 それならば、将軍も聞いたことがある。

 

 古い伝説では、あるところに仲睦まじい夫婦がいた。

 しかし、ある時に夫は事故で亡くなってしまう。


 やがて、年月が経ち妻は新たな夫と結婚した。

 すると、死後の世界から夫がよみがえって来た。


 夫は、再婚した妻を見ると口汚くののしり、桃を投げて死後の世界に帰って行ってしまったのである。


「それで・・・その死後の世界に通じる道ってどこか知っているのかな?」

 将軍は、ニコニコと魔攻使いに聞く。


 さらに、鎌の刃が首に食い込む。


「あ…・伝説ですよ!?ただの伝説ですからね!?」

「いいから、教えてくれるかな?」


「シマーネに・・・その、道があるって伝説が残っているんです」


 シマーネか・・・そう遠くはない。


「なるほど。では行って見るとしようかな」

 将軍は、魔法使いの首から鎌を・・・・どけずに言う。


「あはは・・・ですから、これをどけてもらえないでしょうか?」


 急に真剣な顔になった将軍。


「では、帰ってくるまでに他の手がかりを探しておくように。いいね?」


 魔法使いは、うなだれて小さな声で言った。


「はい・・・」





 賢者は、庭園を見ていた。

 美しい庭園である。


 ここは足立美術館。

 日本画などの展示も有名だが、何より美しい庭園が見事である。


「将軍様にも見せたあげたいなぁ・・」


 そう呟きながら、ポケットに入っている真珠を手に持って見る。

 白く輝く真珠。

 日の光だけでなく、内部の魔素によって輝いている。


 そういえば・・島根には銀山もあったな・・・


 賢者はその場所を思い出した。

 

 そうだ、そこに行って見よう。

 そして、この真珠を・・・


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