こう知

 本堂まで続く、急な長い石段。

 杖を突いて昇っていく、白装束の小柄なお遍路さん。


 ここは、こう知。第三十六番札所 独鈷山 青龍寺。


 暴風雨の際に、不動明王が表れて波を切ったとの伝説がある。

 そのため、波切不動尊がご本尊。


 本堂で、手を合わせいつまでも頭を下げる少年。

 思い詰めることがあるらしい。





「さっきのところも、もう通り過ぎた後でしたわね」


 第30番札所の住職は、賢者のことをよく覚えていた。

 真剣に祈る姿が印象的であったらしい。


「そうだな、次に向かおう」


 将軍と、異世界の勇者は賢者を追ううちにお遍路さんとして札所を回る少年の噂を聞いたのだ。

 賢者と容姿が一致している。


 そこで、その後を追っているのだが後手に回っている。


「それこそ、順番が決まっているのですから先回りするのはどうかしら?」


 将軍は、考え込む。


「その方が良いかもしれないが、万が一賢者に気づかれた場合に避けられる可能性もある」

「うーん、そうなんですか」


 そのうちに、街中にやって来た。

 すると、なにやら橋の欄干みたいなものがある。

 ただし・・・これが橋といえるのだろうか?

 コンクリート製で、やたらと短い。


 看板に「はりまや橋」と書いている。


 いぶかしげに見る将軍。

「なんだ・・・これは橋なのか?」


 すると、異世界の勇者は手を叩き嬉しそうに言った。


「あ、これが有名なはりまや橋か・・・噂どおりね」

「なんだ、異世界の物であったか」

「復元した橋もあるって聞いてたけど、こっちにはないみたいね」


 二ホンという異世界にある建造物らしい。

 最近は、融合が進んでいるせいで異世界のものが、あちこちに出現している。


「それにしても・・・これが有名なのか?」

「そうよ。二ホンにおける3大がっかりポイントとして有名なの」

「なんだ、それは・・・それは建造物として残しておく価値があるのか?」

「さぁ・・・」


 その日は、第36番札所まで回ったが・・・賢者はすでに発った後であった。


 もう夜になったため、将軍と異世界の勇者は宿を取った。


「なかなか、追いかけるのも大変なんですね」

「あぁ、そうだな」


 宿の部屋で、話をする。


「ところで、気になっているのだが。なぜ、二ホンとこの国が融合すると世界の破滅になるのだ?」

「ええと・・・2つの世界の物が一か所に集まって融合すると、物質がエネルギーに変換される現象があるの。物質の存在は、物凄いエネルギーになるのよ。大爆発を起こすと言われているわ」


 異世界ファンタジーの人間に核融合を説明するのは難しい。

 つまり、2つの世界の物質が重なると核融合を起こす可能性が高い。

 下手をすると、ビッグバンが発生するのだ。


 異世界の勇者の説明で、将軍様は納得したらしい。


「なるほど、エクスプロージョンの魔法と同じことが起こるわけだな」

「はいぃ!?エクスプロージョンの魔法!?」


 将軍は、さも当たり前に言った。


「私は、魔法は使えないがエクスプロージョンの魔法の原理は知っているぞ。

 同じ空間に素粒子を転移させて融合することで、質量を爆発に変えると聞いている」

「ええ??なんですって?そんなこと、この世界では皆できるの??」

「いや、かなり高い難度の魔法なので使えるものは限られるがな。賢者も使っていたぞ」


 異世界の勇者は、頭を抱えた。

 この世界の魔法使いは、普通に核融合を発生させているらしい。

 危険極まりない。


「そういえば、将軍様はあの次元の裂け目の原因だってことでいいのかしら?」


 この将軍は、魔法を使えないと言う。

 それなのに、次元を切り裂くことができるのだ。

 この世界の人間たちは、二ホンと比べたら規格外ということを改めて認識した。


「いや・・・あれは事故のようなもの・・・そう、事故なのだ」


 視線をさまよわせて、慌てる将軍様。


 異世界の勇者は、一緒に旅する中で将軍様を見てきた。

 真剣で、冷静であるところ。

 凛としたたずまい。孤高の美女と言った感じ。


 そういう普段の姿とのギャップが、かわいいと思った。

 だんだんと、胸の奥で膨らんできた思い。

 それが・・我慢できなくなってきていた。


「でも、将軍さまが原因で世界の危機になっちゃってるんですよね・・?」

「いや・・・申し訳ない。謝罪ならいくらでもする」


 頭を下げる将軍。


「謝罪なんか必要ありませんわ。ただ一つ、お願いしてもいいかしら」

「なんだ?できることなら何でもしよう」


 ニッと笑う異世界の勇者。いたずらっ子のような目。

 頬がちょっと赤い。

 

「わたくし、これから先・・・将軍様のことを”おねーさま”と呼んでもいいかしら?」


 


 


 賢者は、第三十八番札所 蹉跎山 金剛福寺を後にした。

 ここは、足摺岬のすぐ近く。


 賢者は、岬から海を眺めた。

 岩を叩きつける荒波。


 いつまでも見ていたいという欲求を振り切って賢者は岬を後にして歩き出した。

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