とく島
「うみは・・・いいなぁ・・・」
『マイマスタ~~~~、すみませんでした~~~。機嫌を直してください~~~』
泣き声で賢者の称号が話しかけるが、賢者の返事は無い。
すでに、この場所に来て3週間。賢者は海を見続けるだけであった。
そこへ、近づいてくる人物。老婆である。
菅笠を、賢者にかぶせる。
賢者は、その老婆の方へゆっくりと視線を移動した。
「ほら、あんた。ずっとそんなところにいたら熱中症になっちゃうよ!」
笑いながら、老婆は言った。
白装束に杖。
輪袈裟をかけ、納札箱を下げている。
お遍路さんである。
「じゃあね。熱中症には気を付けるんだよ~」
そう言って、笑顔で去っていく老婆。
賢者は、頭にかけられた菅笠を手に取って見る。
同行二人 と書いている。
二人で移動しているという意味ではない。弘法大師と一緒に回っているという意味。
賢者は・・その笠を手に取って・・・立ち上がった。
松山空港から出てきた、二人の女性。
一人は、長身のモデルのような美人。そしてもう一人は、セーラー服の女子高生。
将軍と異世界の勇者である。
「なんで、異世界を普通に飛行機が飛んでるのかしら?みんな不思議に思わないのかしらね」
「どうも、王国の人間は細かいことを気にしないようだからな」
「それにしても、気にしなさすぎだと思うの」
あきれた感じで話す、異世界の勇者。
「私は不思議に思うが、今はそれよりも賢者を探す方が優先しなくてはならないからな。利用できるものは利用するまでだ」
断言する将軍。
任務に対して、どんなことがあってもやり遂げる。
強い意志を持った眼差しである。
「へえ。なるほど・・・。それはそうかもしれませんね」
将軍の言葉に感心する。
異世界の勇者は、最初は魔王の部下である将軍との旅行は心配であった。
異世界では、魔王は敵・・・という先入観があったのである。
しかしながら、この将軍は真摯でまじめな性格。
裏表なく、しかも礼儀正しい。
だんだんと、信頼できると理解した。
「それでは、これからとく島に向かうぞ」
「そうね、急ぎましょう」
とく島の街は・・・祭りの真っ最中であった。
「私は・・とく島で、こんな祭りをやっているというのは初耳だ。何か知らないか?」
”踊る阿呆に見る阿呆踊。 同じ阿呆なら踊らにゃ損損~~~!!”
そう歌って、浴衣姿でちゃりちゃりと何かを鳴らして踊りまくる大勢の群衆。
とても賑やかである。というか、やかましい。
その踊りを見た異世界の勇者。
「あ~~~。これも、融合した影響なのかな・・。私の世界の阿波踊りね」
「融合?この踊りはそなたの世界の祭りをまねているのだな」
「まぁ・・・多分・・・そうね」
将軍は、群衆を見て言った。
「その・・なんだ。おぬしの世界の祭り・・・なんで、こんな変な歌を歌って踊りを踊るんだ?」
「私も、冷静に見て・・・そう思う・・・」
将軍は、祭りの群衆の中。走り回って、賢者を探した。
群衆をかき分け。時には、行きかう人に尋ねて。
だが・・見つからない。
どこにもいない・・・
真夜中になり、人混みもなくなった街角のベンチで肩を落とし落胆する将軍。
異世界の勇者は、将軍が必死に探し回る、真剣な顔を見た。
その胸が、ぎゅっと締め付けられるのを感じたのであった。
疲れてうつむいている将軍。
「将軍・・・そろそろ宿に行きましょう」
そんな将軍の姿を見てられなくなった異世界の勇者は、優しく声をかけた。
「そうだな・・・今日はあきらめることにしよう・・・」
立ち上がり、異世界の勇者についていく。
二人で宿に入る。
ツインルームのビジネスホテルである。
ベッドに腰かけた、異世界の勇者。以前から気になっていたことを聞いた。
「どうして、将軍や魔王はこの世界の勇者のことを賢者と呼ぶんです?」
「あぁ、彼はもともと賢者の称号を持っていたのだ。だから皆、彼のことを賢者と呼んでいる。勇者の資格はその後に得たものだそうだ。彼のことを、勇者と呼ぶのは聖女様くらいのものだ」
「え・・・?賢者で勇者なの?」
「あぁ、そうだ。しかも、あまたのスキルを会得している」
「へぇ・・でも、まだ15歳の子供なんでしょう?」
すると、将軍は異世界の勇者にするどい視線で見つめてきた。
「そうだ。だが、賢者の力は偉大だ。一晩で一万人を倒したこともある。
何より、私は賢者によって救われた。
・・・救ってもらったのだ」
目を伏せて、床を見つめる。
「だから。今度は私が賢者を救ってあげたいんだ・・」
事情は分からないが、将軍と賢者の間には過去に何かあったらしい。
それでも、異世界の勇者は思っていた。
”一万人は、誇張しすぎよね・・・”
菅笠をかぶった白装束のお遍路さんが、歩いてくる。
第一番札所「霊山寺」
まだ小柄な少年の、そのお遍路さん。
なにか、思いつめたように真剣にお参りをしていったのが住職にはとても印象的であった。
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