かごしま
「ほんとに、噴煙を上げてるんだ~」
桜島は想像よりも大きかった。
噴煙を上げている。噴火しているようだ。
さて・・・船の時間まで、どうしようかな。出港の予定は夕方だ。
本当は、かごしまに来たら、砂風呂には行って見たかったんだけどなぁ。
そんな時間はなさそうだ。
目立たないように、あまり動き回らない方が良いのだろうしね。
まずは、しろくまでも食べに行こうかな。
食べたことは無いが、練乳がかかったかき氷という事は知っている。
カフェに入った。
「いらっしゃい」
店員の男性がメニューを持って来た。
開いたらすぐに、しろくまの写真。
「しろくまって、こんなに果物を乗せてたんですね」
「そうだよ、食べて見な、うまいぞ!」
「はい、いただきます」
カフェで、白クマを頼む。
写真以上に大きく、フルーツがたくさん乗っていた。
「あまーい!おいしい!」
大満足である。
それにしても、今日は嫌に賢者の称号が無口だなぁ。
そして、夕方に港にやって来た。
僕は、帽子と眼鏡で一応変装している。
もちろん、魔法隠蔽や認識阻害までかけている。
乗船手続きを済ませ、船に乗り込む。
思ったよりも、大きな船。
お客さんは、あまり多くはいないようだ。
やがて、船は動き出した。
岸を離れ、沖に進んでいく。
僕は、ふうっと息を吐いた。
安堵の息だ。
これで、しばらくは追ってこないだろう。
何とか、逃げ切ったかな。
今頃はK国を調べていることだろう。
港を出てから数時間たった。
深夜。
デッキのベンチに座って、暗い海を見ている。
もう陸地は遠く離れていて見えない。
そろそろ、寝ようかな・・・どうせ2等客室で雑魚寝だけど・・・
と思った時。
声をかけられた。
「隣、座ってよろしいかしら?」
僕は、ギクッと体が硬直した。
ゆっくりと隣を見る。
聖女様がにこやかに座ってきた。
「わしも、座っていいかの?」
そう言って、反対側に座ってくる女性。
魔王様だ。
「私もいるわよ~!」
そう言って、魔法使いが肩をつかんで来た。
「ど・・・どうして、ここが・・・・」
賢者は、脂汗をだらだら流しながら顔を引きつらせて聞いた。
「内通者から連絡をもらったんだ」
魔王様が言う。
「な・・・内通者?」
内通者ってなに!?
『私ですが、何か?』
・・・・・・
『将軍様、小狐丸は持参していただけましたか?』
「あぁ・・・ちゃんと肌身離さず持っている」
将軍様が、鎌を大事そうに持って立っている。
賢者の称号・・・裏切った!?
『マイマスター。裏切っただなんて、心外です。私は、あくまでフェアな勝負を提案しただけです』
フェアな勝負?
「突然、賢者の称号の声がした時にはびっくりしたぞ」
あっはっは、と魔王様が笑う。
「そしたらね、あなたを捕まえる勝負なんかではなく別な勝負を提案してくれたの~!」
魔法使いが言う。
「別な勝負?」
「そう・・・フェアな勝負。ベッドの上で勝負しまようって・・・提案してくれたの」
聖女が、賢者の耳元に口を近づけて色っぽく囁く。
「そ・・・そんな勝負、僕は合意してないよ!?」
「まぁ。いいではないか」
魔王様が、笑いながら言う。
「しょ・・・将軍様・・・」
「すまん、賢者。この勝負・・・私は、負けるわけにはいかないんだ・・・」
何か、悲壮な表情で気合を入れている将軍様。
「ええ・・・・」
「ちなみに、ここは陸地からかなり離れているから瞬間移動はできないぞ」
「私と魔王と魔法使いの3人で魔法阻害をかけているから、いくらあなたでも魔法は使えないわ」
1/10の3乗。つまりは1/1000になってしまう。
全く使えないわけではないんだ。
『すべてのスキルの発動を凍結いたしました』
えぇ!?ちょっと・・・それは勘弁してよ!!
全部の女性が、にやにやと笑いながら宣言した。
「これ以上逃げられないよ~」
「もう逃がさないわよ」
「もう逃さんぞ」
『マイマスター、我々の勝ちです』
かごしま沖の海上において、逃亡賢者はついに拘束されたのであった。
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