ナガーノ 賢者と勇者

 険しい山の頂上。

 御嶽山、剣が峰の山頂。

 高山であるため木が一本も生えていない。岩山である。


 お社が祀られている。

 その隣に、巨大な岩があり・・・・

 てっぺんに、剣が刺さっていた。

 その剣には立派な装飾の施されていて、神々しく輝いている。


 その柄に手をかけると、頭の中に声が響いてきた。

 若い女性の声。


【勇者様。あなたの来るのをお待ちしておりました。

 私は、聖剣エクスカリバー。

 さあ、共に魔王を倒しましょう!】


 僕はその柄を握りしめ・・・・




 その岩に、さらに深々と押込んだ。




【な!!な!!何てことするんですか!?刃こぼれしちゃうじゃないの!?】

「だって、魔王様を倒すだなんて言うから。つい」

【へ??だって、勇者ですもの。魔王を倒すのでしょう!?】

「倒さないよ?魔王様には、お世話になっているし」

【え?え?・・・どういうこと?】

「だから・・・僕は、魔王様と仲良しだから倒さないって言ってるの」


 すると、聖剣はぶるぶると震えだした。


【な・・・な・・・なんてこと言うの!?それでも勇者なの!?】


 聖剣の振動が、さらに激しくなり・・・刺さっていた岩がパカッと割れてしまった。

 思わず、落とさないように聖剣を握りしめ持ち上げた。


 すると・・・聖剣の刀身から光があふれ、輝きだす。

 僕は、目を開けていられなくなり思わず閉じてしまった。


『あ・・・しまった』





 目を開けると、そこは緑にあふれた草原だった。

 空は虹色に輝いている。オーロラのようだ。


 そして、目の前には・・・

 聖剣を手に持ち、掲げている筋肉男マッチョマンがいた。

 上半身裸で、腰に白い布を巻きつけているだけである。


〖わっはっはっは!!!ようやく自由になれたぞ!! 聖剣エクスカリバー!よくやった!〗

 よく見ると、その男の傍らには中学生くらいの少女がいた。

【あいつ、何なんですか?魔王を倒さないとか言っちゃってますよ?】

〖たいした問題ではない。あいつなど、いくらでも説得洗脳してしまえばよい。ただ、それには、あの女が邪魔だ〗


『申し訳ありません、マイマスター。今まで拘束していたのですが、聖剣の力によって逃げられてしまいました』

 僕の隣から、女性の声がした。


 そちらを見ると、僕のすぐそばに黄金色に輝く女性がいた。といっても、光っていてシルエットしかわからない。

 スタイルは、細身だけど出るところは出ている・・・

「こ・・・ここは?君は誰?」

『ここは、マスターの精神世界です。私はマスターの持つ賢者の称号』


 あ、女の人だったんだ。


『そして、あいつは勇者の称号です。いままでは拘束していたのですが、聖剣によって解放されてしまいました。申し訳ありません』


 勇者の称号は、笑顔で言った。

〖少年よ、私と一緒に来るのだ。私と共にくれば、名声も女も思うがままだ。ハーレムだって手に入るぞ。この世界のあらゆるものを与えてやる。それが勇者と言うものだ。さあ、こちらに来い〗


『マスターはそんなこと望んでは・・・』

 その言葉を手で制して、僕は言った。


「僕が望むのは、そんな世界じゃない。僕は、魔王様も人間もみんな仲良く平和な生活を送りたいんだ。ハーレムなんていらない!」

〖何を言うか! 勇者が聖剣を取って魔王を倒す事は太古の昔から決まっていることだ!〗

「そんな未来はいらない!そんなこと、僕が変えてやる!」

『マイマスター。私も一緒に参ります』


〖ええい!聖剣よ、行くぞ! 賢者の称号を倒して、あの少年の性根を叩きなおしてくれようぞ!〗

【はい!やっつけちゃいましょう!】


 筋肉男は、聖剣を振りかぶり・・・振り下ろしてきた。

 それだけで、激しい衝撃波が大地をえぐり襲ってきた。

 僕は、隣の賢者の称号の腰を抱えると瞬歩を使って回避した。



 それからの戦いは、激しいものであった。



 勇者の称号は、聖剣による衝撃波で攻撃してくる。


『バインド』『グラビティ』

捕縛バインド!!」「爆炎エクスプロージョン!!」


 勇者の攻撃を、認識阻害と幻影でかわしながら、賢者の称号と一緒に大量の魔法を放つ。

 勇者の称号は、僕らの魔法を聖剣で無効化していく。


 地表が衝撃でふきとび、地形がどんどん変わって行く。

 

〖ええい。面倒くさい!一気に決めてやる!〗

 勇者は聖剣を高々と天に向かって掲げると、叫んだ。

〖流星斬!!〗


 天空から、幾千もの衝撃波が降り注いできた。

『ウォール!!ウォール!!』


 賢者の称号が、防御壁を2重で展開して防ごうとする。

〖無駄だぁ!〗

 叫ぶ勇者の称号の背後に瞬歩で移動した僕は、後頭部を殴ろうとした。


〖甘いな〗

 勇者の称号は、にやりと口をゆがめると聖剣を横殴りで振るってきた。


 僕の胴体に迫る剣。

 絶体絶命である。


『マスター!!』




 ガキン!



 辛うじて、腰から鎌を抜いて聖剣を受け止めた。

 聖剣に比べると、小さく頼りなげな鎌。


 たけど、見事に聖剣を受け止めている。

〖な・・なんだと?〗

【え?なんで、斬ることができないの?】


 その時、”ポンッ”と言う音と共に。僕の隣に小さな幼女が現れた。

 頭の上に黄色い三角のケモノ耳。金色のしっぽまである。


”ご主人様!そんな生意気な剣には負けないよ!”

【な・・・生意気な・・・】


 勇者の称号と僕は、聖剣と鎌でギリギリと押し合う。


『スキあり』

 その瞬間、勇者の称号は幾重もの鎖にぐるぐると拘束された。


 バインド。

 賢者の称号の魔法によって、拘束されたのだ。


 地面に転がる聖剣エクスカリバー。


〖くそ!離せ!〗

 じたばたと暴れる勇者の称号。

『もう2度と、抵抗できなくしましょう』

 賢者の称号は、そう言って勇者の称号の頭に手をかざした。

『エナジードレイン』



『ごちそうさまでした』

〖もう勘弁してくれんかのう・・・〗

 勇者の称号は、よぼよぼの老人の姿になってしまった。

 フゴフゴと、歯の亡くなった口を動かしている。

 もう、暴れる体力もないようだ。



 聖剣エクスカリバーは、ぶるぶると震えながら叫んできた。

【わ・・・私をどうするつもりなの!?】

 僕と賢者の称号。そしてにこにこと笑うケモミミ娘が取り囲む。

「もちろん、もう人に危害を加えられないようにするだけだよ」


 バインド・・・。魔法の鎖でぐるぐる巻きにして抵抗できないようにした。

 ぶるぶると震えているが、拘束は解けない。


「さて、これでよし!それで元の世界に戻ることはできるの?」

『それについては問題ありません。ところで・・・』

「はい?」


 賢者の称号は、話すのをためらった。

 先ほど出てきたケモミミ娘は、鎌に宿った精霊。

 つまり、鎌も聖剣化しているという事。


『いえ、なんでもありません。ところでハーレムはいらないと言いましたが本当にマスターは興味が無いのですか?』

「うん、別にいいかな」


 賢者の称号は、近づいてきて・・・そっと抱きしめてきた。


「え?・・あの・・」

『それがフラグにならないといいのですが』


 賢者の称号が、額にキスをした。すると世界が光に包まれていった。



 目を開けると、僕は御嶽山の山頂に戻っていた。

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