ニーガタ

 ガキン・・・ガキン・・・・

【キャア!やめて!!もうやめて!!】

 ガキン・・・ガキン・・・・

【お願い!!・・ああ・・!!もうやめて!!】



 ニーガタのツバメサンジョーの工場に無理を言って、場所を借りている。


 そして今、聖剣を鋤に鍛えなおしているところ。


【キャア!キャア!キャア!】

「うるさいなぁ・・・」

【だったら、もうやめてよ!】


 そういうわけにはいかない。

 熱して、折り曲げてまた熱する。

 その繰り返し。


 木製の柄をつけて完成。

 立派な鋤が完成した。


【えぐえぐ・・・ひどい・・・】

「いいじゃないか。争いより平和だ一番だよ」

『剣を打ち直して鋤となし・・・まさしく平和の象徴です』


 さて、聖剣は無事に鋤に作り替えることができた。

 それでは、北海道に戻ろうか。




――――


 聖女と魔法使い、そして将軍と魔王の配下たちはナガーノからニーガタに向かっていた。


「本当に、ニーガタに賢者はいるんだろうな!?」


 将軍が不機嫌そうに聞く。

 なかなか、賢者の行方がつかめずイライラしているのだ。


「大丈夫ですよ。どうやら今は動いていないようですよ」


 魔法使いの探知によって、大まかな方角は分かるようになった。


「では、急ぐぞ!」


 将軍は、ずんずんと先に進んでいこうとする。


「あ、まってよ~」


 聖女の移動は遅い。

 将軍はイライラしながら、進んでいくのであった。


――――


 グンマーよりニーガタに進軍しているイガの軍勢。


「どうやら、聖女たちはニーガタのツバメサンジョーに向かったようだ。そこに賢者がいるはずだ。先回りするぞ!」


 一万もの大群なのだが、進軍の速度は迅速であった。

 やがて、ツバメサンジョーの町を取り囲むように包囲した。


「男爵様。敵は、包囲網を脱して山の方に向かったようであります」


 賢者は、街の人に被害が及ばないように山の方に逃げたのであった。


「ちょうどよい、山に追い込み取り囲んで夜まで待て。夜に山全体を焼き尽くしてしまえ!」


 男爵は、次々に指示を出す。

 相手が高度な認識阻害を使ったとしても、火の海から逃れることは困難なはずである。

 さらに矢の雨でもって、射殺す算段である。


 あいてが一人であろうとも、人海戦術で確実に殺す。

 

 全力で、勇者であり賢者の少年を抹殺するつもりであった。




 ツバメサンジョー郊外の山の上の東屋のベンチに賢者は座っていた。

 ここはアカサカ山の頂上である。

 なお、この山も古の古戦場であった。


 日も暮れて来て、薄暗くなってきた。

 頂上から見ると、山全体をぐるっと取り囲んだ大勢の軍勢。

 松明の群れが川のようにうごめいている。


「これは・・・やばいかな・・・?」

 賢者は、山頂から眼下に見える軍勢を見てつぶやいた。


”ご主人様、僕も戦うよ~!”

 腰につけていた鎌から声がする。


「そう言えば、君の名前は?」

”ご主人様がつけてよ~”


 賢者は、ケモミミと黄金色のしっぽを思い出した。


「じゃあ、小狐丸と名付けるね。よろしく、小狐丸」

”はい!ご主人様。よろしくお願いします”


【わ・・・私は何もしないからね!!】

 鋤となった聖剣。傍らの木に立てかけている。


 さて、どうしようかな。

 あの軍勢から逃げることができるだろうか・・・?


『問題ありません』

 賢者の称号が冷静に言う。


『勇者の称号から力を得たため、瞬歩と剛脚の合成スキル、高速移動スキルが使用可能です』


 なにそれ、高速移動スキルって?


『高速移動スキル発動中は、通常の数十倍のスピードで活動できます。そのため、あの程度の軍勢など、敵ではありません』


 うん、それは興奮するね!

 じゃあ行こうか。


 もう、あたりは真っ暗。

 賢者は、立ち上がる。


 賢者の称号と小狐丸。頼もしい仲間だ。

 不安は全く感じていなかった。


 賢者は、腰をパン!と叩いて叫んだ。


「クロッ〇〇ップ!」

『その発言には問題あるのでやめてください』








 将軍が、アカサカ山にたどり着いた時には、早朝になり空が白々と明るくなっていた。


 山の周囲。あたりには、倒れ伏している大量の兵士たち。

 うめき声が、そこら中から聞こえる。

 煙があちこちであがっていて、焦げ臭いにおいが立ち込めている。


「賢者!賢者はどこだ!?」


 叫びながら、将軍は探し回る。

 山に登りながら探し回り・・・やがて頂上にたどり着いた。


 頂上の東屋。

 そのベンチで、賢者が横になっていた。


「賢者! 大丈夫か!?」


 慌てて駆け寄る将軍。


 すると、賢者はゆっくりと目を開けた。


「・・・将軍様・・・夢じゃないですよね・・?」

「大丈夫か!?怪我はないか!?」


 賢者の体を確認する。

 血が出ている様子もなく、ケガは無いようだ。


 将軍は、思わず賢者を抱きしめた。


「よかった・・・ようやく会えた・・・探したぞ」

「将軍様・・・僕・・勇者になっちゃったんです。・・・それでも、魔王領にもどれるでしょうか・・・?」

「もちろんだ。そんなこと関係ないだろう」

「・・・よかった・・・。僕は、怖かったんです。とても・・・。もう帰れないんじゃないかと・・」

「大丈夫だ。一緒に帰ろう!」


 感動の再会の場面。

 それを見ている、魔王の配下は笑顔でもらい泣きをしている。


 だが、遅れてその場にやって来た聖女と魔法使いは、賢者の言葉につっ込みたくて仕方がなかった。


(あんたの方が、よっぽど怖いわ!)


 将軍に殴られそうだから、声には出さなかったけれど。



 イガの将軍の軍、総勢一万人。たった一人、一晩で倒してしまった勇者であり賢者。

 この戦いにより、その名声は広く国中に広まっていったのであった。

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