グンマ―

「ここなら、偶然会うことも少ないと思うけど…」


 ここは、グンマ―の山の中。

 聖女から逃げた賢者。しばらく山の中に身を隠すことにした。

 といっても、山奥の一軒宿に住み込みで働かせてもらっているんだけど。

 ここは、かなり古くからある老舗の温泉宿らしい。なにか、有名だという事だ。


 残念なのは、山の中なので畑はない。

 グンマ―といえば、キャベツやネギなどの有名な作物があるというのに栽培方法を見ることができないのだ。高原で栽培されていると聞くキャベツ。興味があったのだけどな……


 すがすがしい朝。

 だけれども、そこはすぐに戦場になる。


 僕は、早朝から厨房に入る。

「おはようございます!」

 

 さぁ、今日も大変な一日が始まった。



『板前スキルを獲得しました』『板前スキルがレベルアップしました』『調理師スキルがMAXになりました』『刃物使いレベルがMAXになりました』


「炊き合わせあがりました!」

「じゃあ、次は刺身よろしく!」

「はい!」

 朝ごはんの調理。次は昼ごはん。その後は夕食の下ごしらえから準備。

 毎日あわただしい。休む暇もない。


 この食材は・・・

「こんにゃくが良く使われますけど、地元では有名なんですか?」

「バカ言うな、グンマと言えばこんにゃくだろう」

「こんにゃくですか……どうやって作るんでしょうね」

「こんにゃくといえばコンニャクイモから作るんだ、知らないのか?」

 板長に教えてもらう。

 そうか。こんにゃくは農産物から作るんだ。知らなかった。


「次は、焼き物の下ごしらえ頼む」

 イワナの塩焼きの準備。

 ワタを取って、串にさして塩を振る。

『川魚料理スキルを獲得しました』

 相変わらず、細かいスキルだなぁ。


 夕食の作業が終わると、次に明日の朝の朝食の仕込み。

 そのような毎日を過ごしている。

 仕事が終わるのは深夜。


 お客さんもほとんど寝静まっている。


 ようやく仕事が終わった僕は、温泉に入ることができた。


「ふうぅ・・・」


 木でできた、古びた広い浴槽。

 思わず声が出てしまう。


 ここに来て、ようやくわかったことがある。

 得意なことと、やりたいことは違うってこと。


 料理の腕は、どんどん上がっているとは思う。

 でも、僕がやりたいのはこんなことじゃない。こんなの、僕が目指しているスローライフじゃない。

 あぁ……やっぱり僕は農家がやりたいんだ。


 そう思っていると、誰かが脱衣所から入ってくる。


 ……この扉の方向は、女性の脱衣所だ。

 この温泉、脱衣所は別々だけど混浴である。女性専用の時間帯もあるけど、この時間はさきほど終わってしまった。

 知らずに入って来たんだろうか?


「あの、お客さん。この時間は女性専用の時間が終わっちゃったんです。すみません」

 お客さんの方を見ずに、一応声をかける。


 すると、躊躇したのかしばらく動かなかったのだけれど……なんと湯船に入って来た。

 とても広い浴槽。端と端に入っている。僕は、かなり緊張してしまった。なにしろ、ここはタオルを巻いての入浴は禁止である。


 さすがに見るのははばかられる。

 今は深夜。明かりは暗くなっており、湯気もあるのでほとんど見えないだろうけど。


 このままだとのぼせそう。

 多分、お客さんからも見えないだろうから、湯船から出て腰にタオルを巻く。

 見えていないよね。

 恥ずかしさを感じながら、脱衣所の方に歩いていく。


 見ないようにしているのだけれど……視界の隅に入ってしまった。


 暗い湯船の中に見える、とても白い肌。

 そして、湯船に浮かぶようにちらっと見えている……巨大な、おっぱい。




 あの、おっぱい。

 あの大きさの持ち主は、一人しか思い浮かばない。



 その夜、僕は夜逃げした。

 どうして、聖女様は僕の居場所がわかるんだろう。





 その夜。

「せっかくだから混浴温泉に入ったけど、男の方がいて緊張したわ」

「聖女様、大丈夫でしたか?襲われたりしませんでしたか?」

「幸い、従業員の方らしくて紳士的でしたわ。先に出て行っていただけましたし」

「それにしても、賢者様はここにもいないみたいですね。また空振りですか」

「仕方がありませんわ。次の場所を決めましょう」

「そうですね」


 魔法使いは、壁に王国の地図を貼る。

「えいっ」


 そこに向かって、聖女は投げた。

 小さなダーツを。



 ダーツが刺さった場所。

 次に向かう場所、そこは・・・



 

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