チーバ

「いやあ、本当に助かったよ。バイトに来てくれて」

「いやいや、僕はもともと農家ですから。お安い御用ですよ」


 ここは、チーバのチョー市。

 賢者は、大根の収穫のアルバイトをしていた。

 落花生の栽培も手伝っている。こちらは収穫はまだまだ先だ。


 やはり、チーバの名産は落花生らしいが、大根も有名らしい。


 賢者は、ヨコウミから逃亡して、カワサキから海を渡ってチーバに逃亡していた。


 海を渡って逃げているとは思うまい。

 そういう計算である。


 チョー市に来て、複数のバイトをして生計を立てている。

 今は、大根畑で大根の収穫をしているところだ。


『大根抜きのスキルがレベルアップしました』


 最近、なにやら頭の中で声が聞こえる。

 何の声かはわからない。


「あ、そろそろバイトなので抜けますね」

「おお!そうだった、明日もよろしくな!」


 大根農家のご主人はそう言って笑顔で言ってくれた。

 信頼されている実感がある。


 魔王討伐の旅といえば聞こえがいい。

 つまりは人殺しをする旅に行けという事だろう。そんなことはごめんだ。


 賢者は次のバイト先にやって来た。

 旅館の厨房である。


 そこで、板前の手伝いをしているのだ。


「にいちゃん、手際がいいねえ。料理人にならねえか?」

 板前さんに褒められる。

 今は、野菜の下ごしらえ中である。人参や大根やジャガイモの皮をむいてる。


『料理人スキルが5にレベルアップしました』

 いや、僕は農家の称号をもらいたいんだけど。

『農家と言う称号はありません』

 そうですか・・・


「いやいや、僕は農家になって美味しい野菜を作りたいんです」

「そうか?もったいないなぁ」

 そう言ってもらえるのはすごくうれしい。


 今日は、旅館のお客さんが多いようだ。

 作る料理の数も多い。


 すると仲居さんから追加注文が入って来た。

「聖女さま御一行から追加注文で、なめろうが5人前です」

「まいどあり~!」

 威勢よく、板前さんが返事する。



 はい?



「あ、生ごみ捨ててきますね」

「おう!よろしく頼む!」

 板前さんの声を聴きながら、外に出た。




 そのまま、賢者はチーバから夜逃げしたのであった。

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