良家追放〜最強剣士を目指す少年は魔法士の祝福を与えられる〜

magnet

第0話 仕組まれた罠(読み飛ばし可)


 ある部屋に二人の男がいた。一人は神に仕えているような恰好をした神官のような男で、もう一人の男は腰に剣を携えた武人のような男だった。


「えぇっ! あなたは私に、その少年に嘘の適性を言えっておっしゃるのですか!?」


「まあまあ落ち着いてください、そう慌てることでもありませんよ。ただあなたは剣士という代わりに魔法士というだけでいいんですから、簡単なことでしょう?」


「しかし、それは……」


「もしかして神に叛く事になる、なんて思っていますか? では、逆に神様は私たちに何か与えてくれたでしょうか? 不平等な世界だけを作り、気に入った者だけに特権を与える、そのような神のいうことを素直に聞くというのですか?」


「し、しかし!」


「安心してください。貴方を罪に問う者などいませんよ。仮にいたとしても私が排除するだけですからね」


 先ほどまで責め立てられていた神官のような男の顔から少し不安の色が消えた。


 そこで武人のように見える男はここぞとばかりに良い条件を提示した。


「もし、貴方が私に協力してくだされば、大金を用意するつもりです。大金があれば、奥さんや娘さんと楽しい旅行ができますね」


 家族と旅行がしたい、それはその神官のような男の常日頃から思っていた不可能願望であった。


「でも、もし協力できないとなれば、その夢が叶わないどころか……」


「ま、まさか、それは、それだけはやめてくれっ!」


 男は狼狽えた。この目の前の男は最も大切な妻と娘を私から奪おうというのか、と。


「では、やるべきことは明確でしょう。貴方はただ決められた台詞をいうだけで良いのです。それだけで大金が手に入り、家族と平穏な日々が送れるでしょう」


「わ、分かりました。では、貴方の望む通りにします。ですから、妻と娘の安全だけでも保証してください。でなければ私はその後にでも告発しますからね」


「はい、勿論」


 武人のような男は顔にニッコリと奇妙な笑みを貼り付けた。そしてその裏では、告発すれば貴方自身もタダでは済まないだろう、と下衆めいた思考をしていたのであった。


「では、私はこれで。あっ、そうだ協力を約束してくれたお礼に少しばかりですがこちらをどうぞ」


 男は今しがた思いついたかのように、準備してあった小包を渡した。その中には報酬とはまた別の大金が入っていた。そしてそれは、報酬では更に弾むということを意味していた。


「あ、ありがとうございます」


 それを分かってのことか神官気取りの男もそれを受け取り、その会合はお開きとなった。


 欲望と絶望とが入り乱れていたその場では終始、武人のような男のペースであった。そしてそれはその街で行われる「祝福の儀」の三日前のことであった。

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