城の中

バブみ道日丿宮組

お題:儚い誰か 制限時間:15分


城の中

 城壁の先に超えた誰かを聞きたかったから。

 そんな儚い願いを叶えるために城壁を登った。

 だけど、そこから見えたのは、壮大な草原だった。

 人の街があると聞いてたのに、中にはなにもない。人の姿なんてありはしない。凹凸もない。城壁はただ草原を囲ってるだけであった。

「……」

 こんなものが王城と呼ばれる場所なのか。

 警備の裏の裏をかいて、やっとの想いで上に登ることができたかと思えば、なんてことのないもの。見たかったものは見えない。

 幻想は所詮幻に過ぎないということだろうか。

「おい、貴様何をしてる」

 声に振り返れば、兵士が近づいてた。

 長居してたらしい。

「ここは進入禁止だ。黙っておいてやるからすぐに降りろ」

「……あなたたちは何を守ってるんですか」

 つい言葉が漏れた。それは自然に思うこと。

「街を守ってる」

「……どこにそんなものがあるというのですか」

「街を守ってるんだ。それ以外に答えはない」

 さぁいけと、兵士は城壁の外を指差す。

「……降りる道具は持ってきてないのです」

 なにせ登って街に入り、溶け込もうと思ってたのだから。

 こんな結末は望んでいない。

「そうか。仲間に見つかると面倒だな」

 何回かの唸り声をあげると、

「これをかぶって、羽織れ」

 身につけてたマントと、ヘルムを手渡してきた。

「さっさとつけろ。入り口まで連れてってやるから、そこから帰れ」

「……ばれないですかね」

 警備は厳重だ。

 兵士の格好をしてないものがいては注視される。

「許可証を2つ持っててな。1つ貸してやる」

 卍の文字が刺繍された布を手渡される。

「大丈夫だ。すぐに返してもらうから、何も考えるな」

「……どうしてそこまでしてくれるんですか。いっちゃなんですが、反逆罪に取られる行為を僕はしたんですよ」

 はぁというため息。

「かつて幻想を抱いたやつがいてな。その儚さを感じてかな」

 早くしろという声に急かされるようにヘルムと、マントをつけ、許可証をポケットにしまった。


 それから、僕はこの兵士と何度か話をする関係になった。それがどんな結果を招くのか知らない兵士ではなかったはずなのに……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

城の中 バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る