第十三話 フォレスト・ホープ・ガイドブック 9
アダン君の誤魔化したお話に納得したレナエルちゃんは何かに気付いたようにハッとして僕を見た。
「ルカ反対はされないでしょうけど、早めに伝えといたほうが迷惑かからないと思うわよ、一度戻る?」
「あっそれもそうだね、そうした方が良いかな?」
「いや、ここは私達に任せてくれ」
戻ろうとした僕達を止めて、任せろと声を掛けてきたのはリーダーさんだった。
「リーダーさん?」
「キミのリーダーではないからなマートレと呼ぶと良い、ルカ少年。それで伝言なら私のチームのリムに行かせよう」
「分かりました。マートレさんですね。でも、そこまでしてもらわなくても、僕達が戻りますので」
「遠慮することはない、昨日は少し貰いすぎたからな。少しでも返しておかないと罰が悪いのだ。いいなリム」
「わかった」
伝言か手紙かどっちがいいかと聞かれたので、家族が顔も知らない冒険者のリムさんの言葉より、僕の字で書いた手紙の方がいいだろうなと思い、手紙にするというとアダン君が肩にかけていた鞄から紙の束と鉛筆みたいな物を渡してくれた。
手紙には明日、庭で焼肉パーティをやること、アダン君達を呼んでゲインさんを励ますためにみんなにも協力してほしいということ──あ、そうだ。
「マートレさん達も来ます?」
「私達もか?」
「はい、アダン君のパーティ加入おめでとう会も一緒にしようかなって」
「おい、俺のことは良いって」
「せっかく集まるんだし、もうさ、派手に行こうよ」
「アダンのためか、ならば、我々も新メンバーのために参加せざるを得ないな」
スカーレットの他の人達も賛成してくれたので、その旨も手紙に書く。これだけ大賑わいになればアリーチェも喜ぶだろう。
手紙も書き終えたから、じゃあこれでと住所を教えリムさんに渡すと、小さく「まかせて」と呟いて音も立てずに屋根へジャンプしてのぼり、そのまま駆けていった。
「すごいなぁ」と独り言のように呟くと、それが聞こえたのかマートレさんは、嬉しそうに「うちのリムは俊敏さならば誰にも負けんさ」と自慢げに胸を張っていた。
「ではリムが戻るまで少し案内しよう」
「そこまでしてもらって良いんですか?」
「いいさ、君達だけでは冒険者通りは危ないからな。なにせ、ここには冒険者という荒くれ者が集る」
「僕達も危なそうだったからここはやめようかと話してたんですよ」
「手前を見てそう思ったのならそれが正解だったぞ、危ないところには不用意に近づかない、冒険者の基本だ。だが今は私達がいる、安全に完璧に案内しよう。では、マイン頼んだぞ」
「へーへー、そりゃアタシでしょうね。アンタが店覚えてるわけないもんね」
「……すまん」
「アタシも全部は知らないから大体ね」と、前置きをして案内を始めてくれた。さっきのマートレさんが言った手前を見てそう思ったのならというのは、手前の店は高級な武器防具や道具を置いていて、奥に行けば行くほどランクの低い武具屋になる、そしてそのランクに合わせた冒険者が集まるらしく、奥は治安が悪くなるそうだ。
ただ、ここの通りは外壁から監視されているらしく、表立って暴れたりするとこの街の兵士がすぐに駆けつけて、下手をすると追放とか痛めつけられた挙げ句牢に入れられる羽目になるので、女の子一人で歩くとかしない限りは、そうそう被害にあったりはしないらしい。
ただ荒くれ者が多いのは事実だから用心はしないといけないぞ、とマートレさんは言っていた。
「ま、私がいれば誰も絡んでこんがな」
「アンタ容赦しないもんね。ホントよく捕まらないわね」
「当たり前だ、しっかりとギルド規則を守って制裁している」
「リーダーは、そういうところは完璧ですよね」
「はっはっは、サクラよ。そう褒めるな」
「はいはい、すごいすごい」
スカーレットの人達の掛け合いを聞きつつ案内をしてもらう。
手前の道具屋とかにはポーションも売ってあるみたいで店頭に張り紙が貼ってあったりする。
職人通りの方にもありますよね? と聞いたら冒険者はこちら側、つまり噴水を挟んで西側から出ると武器を装備しているのが基本の冒険者達は、あまりいい顔はされないので、この冒険者通りにあるお店で揃えることが基本になるので、こちらにもポーションは卸しているみたいだった。
ここには高級なポーションは売っていないけれど、C級以上になれば中級冒険者として色々と認められるので、C級以上なら職人通りに完全装備で買いに言っても咎められないらしい。
それ以下だとチンピラ程度にしか思われないため、西側から──出来るならこの通りからはあまり出てくるなということだ。
今は他の住民とのいざこざがあったりするわけじゃないけれど、態度の悪い冒険者に我が物顔で歩かれると後々の対立になるため区分されているみたいだった。そんな事気にしない人達がいざこざ起こすんじゃないのかな? と思ったけど上の冒険者が睨みを効かせているから何も起こってないとのことだった。
「一番手前のここがこの街で一番良い品揃えをしているベルトルカ武具屋よ。ミスリル級のドワーフ鍛冶師が作った武具を卸している唯一の店ね。バカみたいに高いけれどその分性能もいいわ、殆どが貴族に買い上げられていくドワーフ武具が普通に売っているなんて物凄く珍しいことなのよ。それ以外にもエルフとの繋がりがあるみたいで魔術師用のも良いのが揃っているわ」
マインさんが冒険者通りに入ったところすぐにある大きなお店を指さしながら教えてくれる。ベルトルカってここもか、ポーション屋に武器屋に本屋にも関わってるよね、結構この街に食い込んで商売しているなぁ。多分探せばもっとありそうだ。
高級店らしくお店の前には武器を持った警備員だか冒険者だかが、二人立っていた。
指を指したマインさんに手を上げて挨拶していたから顔見知りかな。
「その貴族様がこっそり来て買い占めたりしないんですか?」
「無理ね。ここに入るにはB級以上の冒険者のライセンスが必要だもの、まあ、逆に言えばB級持っている冒険者連れて来たら貴族でも買えるんだけどね。でも、ここは辺境伯様の息が掛かってるからね、普通の貴族は普通に買うだけならまだしも、買い占めるなんて無茶な真似、恐ろしくて出来ないわよ。それよりも入ってみる? ここの武具さえ見とけば後に店には入ってみて見るほどの物は殆どないわよ。道具屋も職人通りを見てきたのなら同じね」
「えっと、どうする? レナエルちゃん」
「……ちょっと見てみたいかも。でも良いんですか?」
「普通はダメだけど、私達と一緒でその制服なら咎められないわ。ね?」
「ね?」っというのはお店の前に立っている二人に声を掛けていた。その二人は揃って首を縦に振っていたから本当に大丈夫みたいだったので、全員でお店に入った。
入ったお店の感想としては正しくファンタジーの武具屋って感じだった、アダン君も思わず「この中ってこうなってたのか、すげぇな」と言うこと呟いていたから入ったのは初めてだったんだろう。レナエルちゃんをちらりと見たけど眼をキラキラとさせて店内を見回している、こういうの好きだったんだ。
マートレさんは入ってすぐに店の奥まで行き、この店の人と思しき人に話しかけていた。
「店主、何日かぶりだな」
「これはマートレさん、うちの商品に何か不具合でも?」
「いやそうじゃない、あの盾はなかなかに体に馴染む。使い古した私の剣と違い無駄な音も立ちにくいしな」
「そいつは良かった、それで今日の御用は?」
「うむ、未来ある少年少女のため少し見学させてはくれんか?」
マートレさんはそう言うと僕達をちらりと見た、簡単に冷やかしさせて欲しいという台詞に店主さんは少ししかめっ面をして考え込んだ。
そこに、マインさんが横に来てマートレさんを軽く肘で突っつきながら話に入っていった。
「リーダーだめよ。店主さんも商売なんだから、店主さんアレを十本ほど貰えるかしら? それとソレを入れるベルトもね」
「へへ、毎度あり。もちろんスカーレットのリーダーのマートレさん、副リーダーのマインさん二人の言うことに嫌なんていうわけ無いですよ。好きに見ていってください」
「感謝する、少しは手にとっても構わんな?」
「……乱暴にはしないでくださいよ」
「もちろんだ」と言うと、店主さんが投げナイフみたいなものとベルトをカウンターの上に置きの金額を告げると、マートレさんはマインさんに確認してから払っていた。
僕達はマートレさん達が戻ってくるのを待って、小声で聞く。
「いいんですか? そこまでしてもらって」
「いいのよ。それにコレはもともと買うつもりだったからね。タダでなにかするってのは冒険者に付け込まれるからね、ちょっとした小芝居よ。店主さんも分かってるわ」
マインさんは小声じゃなく普通の音量で喋り、その説明に店主さんの方を見るとさきほど渋った顔とは思えないくらいのいい笑顔で、こちらを見て頷いていた。
「ま、ワタシ達と繋がりのあるなら、後々お客さんになるかもしれないからね店主も先行投資よ。だからアンタ達も気にしなくていいわよ」
「はい、ありがとうございます」
その後みんなバラけて店内を見て回る。高級店と言っても全部が高そうに飾っているやつばかりじゃないらしくて、店の入口近くには数打ちの剣として適当に並べている物もあった。僕がそれを見ているとマインさんから声を掛けられた。
「数打ちと言ってもここのはドワーフの工房製だからね。質はいいはずよ」
「あっ、ドワーフ鋼とかいうやつですか?」
「ふふっ、さすがに違うわよ。ドワーフ鋼で作られた武具は基本的にオーダーメイドだし、今この街でドワーフ鋼を作れるのは、ドドンドンっていう工房長しか打てないんじゃない? 階級は──」
「あ、確かミスリル級の鍛冶師って」
「お、キミよく知ってるわね。そう、ミスリル級よ相当な凄腕ね」
「そうなんですか?」
「そうよ、鍛冶師の階級ってのはね──」
マインさんが教えてくれたのは、ミスリル級っていうのは上から三番目のランクだけど、冒険者のランクとは違い鍛冶師の階級と言うのはミスリル級の三つ下、準アダマンタイト級と言う名前からしか名乗れないらしく階級が付くこと事態が鍛冶師としての最大の名誉で、鍛冶師はその打てる金属によって階級が決まるとのことだ。
魔力のない金属の基本が鉄、銅、銀、金で、魔力がある金属──魔法金属──が
そして、ドワーフ鋼とは魔力のない金属を貴重すぎる魔法金属を目標に、ドワーフが編み出した鍛錬方法で造る準魔法金属のことを言うそうだ。魔法金属の魔力の通りやすさを百、ない金属を一とすれば、準魔法金属は鍛冶師の腕によるのでブレはあるけど良くて三十くらいらしい。鍛冶師の階級で例えばミスリル級に準が付く場合は、銀のドワーフ鋼──準ミスリルもしくはドワーフ銀という──が造れると言う意味と言うことだ。
ついでに教えてもらったのが高位貴族と名乗るのに魔力操作のギフトが必須だというのがあって、準ミスリルのインゴットに魔力を通すのことが必須条件になるんだとか。
「へー、そうなんですね」
「そうよ、それで階級──称号とも言うわね。それがつけば自分の工房を作れるし、一流の鍛冶師として認められるわ。ミスリル級まで行けば超一流よ。ホントよく自分の国から離れられたわね」
「素材につられたって本人は言ってましたけど」
「へーよく知ってる……って、キミ会ったことあるの?」
「まあ──」
「──ただいま、かえりました」
同じクラスですし、と言おうとしたら後ろから声を掛けられてビクッとしちゃった。
同じくマインさんも軽く飛び上がってびっくりしていた。
「ちょ、ちょっと、いつも言ってるでしょ、気配なく後ろに立たないでって」
そう抗議の声を上げるマインさんをスルーしてリムさんは僕の前に跪いた。えっ? なんで?
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