第十三話 辺境の魔の森 1
奥なんてまったく見通せない深い森の前に、でっかい校舎がこれまた広いグラウンドらしきものを挟んで建っていた。あれー全然都会じゃないぞー。
おじいちゃんの領地に建てたと聞いたからてっきり、都に建てたとばっかり思いこんでいた。
僕達の村とはまた違った場所にある辺境じゃないか! くそう騙された。
一番奥から視界いっぱいの森、そしてあんまり整備されていないグラウンド、校舎、四つの寮らしきものがあるだけだった。
「どうだ? 立派な校舎だろう?」
「う、うん。でもこんなところでいいの? もっと都会のほうが良かったんじゃない?」
僕はこの世界の都会とはどんなものなのかと期待していので、ちょっと拗ねるようにおじいちゃんに言う。
「ルカよ。ここがどこか分からんか?」
「分からんか? って言われても僕、村の外に出たの初めてだよ?」
「そうだな。だからお前が分かる場所というのは限られてくるだろう?」
「え? ……あ!」
この場の魔力が淀んでたから分かりにくかったけど、微かに感じるこの魔力は──
「エッちゃんがいるよね? 向こうの森の奥に」
「……そうだ。それは予測ではないな。わかるのか?」
僕が世界樹のある方向に指を指しながらおじいちゃんに確認すると頷きながら肯定してくれた。
「魔力淀んでるから微かにだけどね。何でこんなに淀んでるんだろ?」
「これでもかなりマシになったんだぞ。これくらいなら慣れれば抵抗力がつくからいいんだが、その前は抵抗力があっても体調を崩すくらいだったからな」
「そうなの?」
「そうだ、淀みが薄れたおかげでギリギリまで森に校舎を近づけることが出来たんだ」
「でも、そんなことしたら生徒に慣れる前に体調崩す人出てこない?」
「この程度で出るなら……な?」
おじいちゃんは笑いながらもどこか冷めた声を出してそう言った。
「でも校舎と寮みたいのくらいしか無いけど、アリーチェ達はどうするの? おじいちゃんの都? 離れ離れになるとエッちゃんとの繋がらせるのができなくなっちゃうよ。後、さみしいし……」
「村から人を連れ出しているのに俺の都に住まわせてどうする、この近くに街を作ってある。もちろんお前達の家もそこだ。お前も寮なんかじゃなく一緒に住めるぞ」
「よかった、一緒に住めるんだね。……って、え? いまおじいちゃん街を作ったって言ったの? この二年だけで?」
「そうだ、人足の数さえ揃えればただの街なんぞ直ぐにできる。もう結構な賑わいだぞ。辺境伯としての名前を使って街を作ったからな。目ざといやつはすぐに食いついた」
そんな話をしていると、少し遠くに見える森の中から出てくる人影が見えた。
その人影はこちらに気付くとブンブンと手を振りながら駆け寄ってきた。
その人影は深緑の髪の色をしているのが遠目でもよくわかった。なにせ少し光って見えるからね。そして、その髪を持っている人物は僕も知っている人だった。
「やぁやぁ、待ってたよルカくん」
「えっアリアちゃん!? アリアちゃんがどうしてここに?」
「そりゃあ、僕も学校作りの手伝いをしたからね。今は森の中で色々と準備が終わった所さ」
「準備?」
「それは教えてあげない。事が起こるまでは秘密だよ」
「それよりも」とアリアちゃんが僕に近づいてきた。
「うーん、やっぱりヒューマン種の成長は早いねぇ。ずいぶんと大きくなったね」
「二年経ったからね、でも僕は普通くらいだよ? アダン君なんてもっと大きくなったよ」
「そうなのかい? まあ、他の子は別にいいんだよ」
さっきヒューマンって言ったけどなんのことかな? 普通の人間のことかな?
そんな事を考えてるとアリアちゃんが僕の真正面に立って息のかかる位の距離まで近寄ってた。
「どうしたのアリアちゃん? 近いよ」
「あれ?……いや、ちょっとね。ルカくんとの身長を比べてるんだ」
アリアちゃんがなにか気になったように鼻を鳴らしてたけど、僕の質問に答えた後、僕の頭と自分の頭の差を手で測って少し離れた。
「そうか、このくらいだね」
「前は殆ど一緒だったから十五cm差くらいだね……って、えぇっ!!」
アリアちゃんの体に濃密な魔力が巡ったかと思えば、僕の目の前でぐんぐんと背が伸びてあっという間に僕と同じ身長まで伸び、少し幼さが取れて冷たい印象が垣間見える美少女になった。このまま成長したら恐ろしいほどの美女になるのはわかるくらいには。
「どうだい? 驚いたかい? ……うん、驚いたみたいだね」
「そりゃ驚くよ。だっていきなり成長したんだし、それもなにかの魔法?」
「ふふ、眼の前でやったかいがあると言うもんだね。これは魔法というよりスキルさ。僕も一年に一度しか使えないよ、まあ、いつもは百年くらいに一度しか使わないけれどね」
聞くと何でも百年に一度に僕達で言う五歳ほど成長させて、それを繰り返し二十五歳くらいまでいったら五歳に若返るそうだ。老化はしないからそこまでいくと後は変わらないから二十五歳くらいまでらしい。
何でも感性が成長と共に変わるので、それで感情が麻痺しないようにしているらしい。長命種の生きる知恵だそうだ。
でも、それが百年に一度ってのも気の長い話だよね。
「これからは、ルカくんに合わせて成長しようかなと思ってね。これもまた一興ってことだね」
「そ、そうかな?」
「そうだよ。それにここ二年ほどかけて精神もちょっと変化させて、ヒューマン種と生活が合うように調整しているんだよ?」
そう言って切れ長の目でじっとりと見られると、なぜか背筋に少し冷たいものが走った。
「それよりもだよ」
「えっ?」
アリアちゃんは、もう一度僕に近づいて鼻をクンクンと鳴らして僕の匂いをかぐようにしてきた。
「ちょ、ちょっと、何匂いを嗅いでるの? 恥ずかしいからやめてよ」
「ルカくんに漂うこの魔力の残り香。……君はまた面白い物を引き当てたね」
ものすごく嬉しそうにニンマリと笑うアリアちゃんに、なんのことか分からない僕はその様子に若干引いていると、今まで黙って後に下がって見ていたおじいちゃんが口を挟んできた。
「アリア殿、私の孫との邂逅は無事に済んだようですな」
「ああ辺境伯君か、いたんだね。うん、ルカくんの成長も見れたし驚かせもできたし満足だよ。ここにルカくん連れてきてくれたことを感謝するよ」
「その感謝ありがたくお受けします」
えっ? おじいちゃんって貴族として大分偉いんだよね? アリアちゃんに対してこの態度ってことはハイエルフって本当に偉いんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます