第十六話 魔法の神様の勉強

 僕達が村長宅に行き、父さん達に朝ご飯を渡すため家の中にお邪魔したら、父さんは浮かれてこの村で作っているエールをすでに結構飲んでいたらしく、楽しそうに笑っていた。

 

 反対に何故かロジェさんは渋い顔をして、おそらくエールのお供として食べているのであろう。ジャーキーをかじっていた。

 僕達が来ると椅子に座ったまま、僕に向かって向きを変えて僕に「少しは分かってたんだが、お前も苦労したんだな──レナエルで良ければ好きにしていいんだぞ」と、酔っぱらいの戯言みたいなことを言い出したので、トシュテンさんから頭を叩かれ、レナエルちゃんからはすねを蹴り上げられて悶絶していた。

 それを見て父さんは笑っていた。


「すみませんルカくん、バカ息子が変なことを言い出して……」

「そ、そうね、家の父さんがごめんなさい」

「まあまあ、良いじゃないですか。ロジェさんも気にしないでください」


 僕は酔っ払いの言うことを真に受けても仕方ないので、軽く流すことにした。


「父さんも、母さんがせっかくシチューまで作ってくれたんだから、おつまみばかりじゃだめだよ」

「おつまみったってよ、ここにはあんまり脂っこいものはねぇぞ?」


 机の上を見る先程ロジェさんがかじっていたジャーキーとナッツや野菜スティックみたいなものとか芋の蒸したものが置いてあった。

 あ、そりゃ、日本じゃないんだ味の濃いものばかりで飲むとかじゃないな。

 どちらかと言うと体にいいものが多い、母さんの作った村の牛乳?で作ったクリーム系のシチューのほうが味が濃いや。


 僕はあまり口に入ればいいと食事のことは気にしていなかったから、今さらになって気付くなんてちょっと恥ずかしいな。


「じゃあ、僕達教会に行ってくるから」


 というと、父さんは母さんを見て、「何だソニアも行くのか」と寂しそうにつぶやいた。おそらく自分を抜きの家族全員で出かけるから、自分で飲みに行ったのに少し疎外感を感じたのだろう。 

 

 「レナエル、しっかり神父様の話を聞いて勉強してくるんだぞ?もちろんルカもな」

「分かってるわ、父さん。──早く行きましょ」


 後半は僕達に向けた言葉だ。またロジェさんが変なことを言う前に出かけてたいのだろう。


「そうね、すみませんがトシュテンさん、エドをおねがいしますね」

「承りました。こちらこそ、レナエルをよろしくおねがいします」

「もう、おじいちゃんたら。私はそんな子供じゃないわ!」


 また飲みに入った二人を置いて、ふくれるレナエルちゃんと僕達をトシュテンさんは玄関まで見送り、村長宅を後にして教会に向かって歩き出した。


   ◇◇◇◇


 教会に入ると、前世の礼拝堂によく似た部屋の長椅子に、そこそこな人数の村人が座っていた。

 休養日のこの時間は基本、神父様によるこの世界の常識や魔法のこと、たまにおとぎ話みたいな話をしてくれる。学校みたいなものらしい。

 きっちりとしたカリキュラムとかはないらしく、保護者に請われて話すこともあるけれど、基本的には神父様の気分で話をすることが多いみたいだ。

 神父様が思いつかず同じ話も結構あるらしいけど、僕は最近聞き始めたばかりなので、結構新鮮な感じで話が聞けている。


 教会の中を見ると子供達が多く、結構つまらなそうな顔をしている子が多い。僕みたいに親子連れで、来ているのも結構多いようだ。 

 僕達が一番うしろの長椅子に並んで座った。背負っていたアリーチェは、目を覚ますまではと、抱っこに切り替えてまだ僕が抱いている。


 神父様の話が始まり「今日は何の話をしましょうか」と、周りを見渡して僕と目が合う。神父様は思いついたようで「では、魔法の話をしましょう」と告げた。

 子供達も魔法には興味があるらしく、少し騒然となった。


   ◇◇◇◇


「ではまず、私達が誰でも使える魔法、なんだかわかりますか?アダンくん」


 神父様が一番前の父親に連れられて座っている赤毛のアダンくん? に聴いてみた。

 先程まで不満そうだったけど、魔法の話になると後ろから見ても分かるくらいワクワクしているみたいだ。


「もちろん、知ってるぜ生活魔法だろ!俺も使えるぜ!」


 そう言って腕を上に上げて、火魔法で種火程度の火を出し──すぐに父親に消火されげんこつを食らっていた。


「いってーーえぇ!!!なにすんだよ!」

「なにすんだよじゃねぇ、この馬鹿!あれほど火魔法は許可なく使うなと言っただろう!」


 火事になったらあぶないもんね、僕も火魔法は殆ど使わない。下手に使ってアリーチェがやけどしたらと考えるだけども怖いのに。


神父様はこほんと、咳払いをしてから話を続ける。


「そうですね、生活魔法であっています。それと、みなさんも火魔法の扱いには注意しましょう、アダンくんみたいになりたくなければね」


 そういうと、軽い笑い声が教会内に響き、アダンくんは不満そうに頬を膨らませていた。


「生活魔法とは水、火、風、土の基本四種と呼ばれる誰にでも使えるものを言います」

 

 ん? 基本四種? 基本てことは他にもあるのかな?


「すこし、話は飛びますが私が使っている回復魔法は生命魔法という、大きな括りのうちの一つとなります。生命魔法とは自分とは違う他の人に魔力の影響を与える力に特化した魔法ですね。司る神様もそのまま、生命の神です」


 へーそうなんだ、僕は生活魔法と自己強化しか使えないから他の魔法のことはあまり知らなかったな。もちろん、神父様の回復魔法は知っているけどそれだけだ。


「そしてこの村の方々が得意な自己強化、実はこれも魔法の一種で魔力を高めて使ってるだけじゃないんですよ? ──どうやら、分かってない人も多少いるようですが自己強化を使ってる人は感覚で覚える人も多く、これは才能がなくても、頑張っていれば、ほとんどの人が使えるようになる魔法の一つでもありますね」


 そこまで神父様が話をしたら勢いよくアダンくんが手をあげた。


「はい、アダンくん。どうされましたか?」

「自己強化なら俺も使えるぜ!!うぉーーー!」


 掛け声とともにアダンくんが魔力を放出するけど自己強化までは到ってない。ただ魔力で少し力を上げているくらいだ。


「アダンくん、残念ですがそれは自己強化ではありませんよ」

「えぇー!俺はこれで力すげー上がったんだぜ!」

「何処がどう違うとは言葉では言いにくいのですが、そのままそれを使い続けて、アダンくんが自己強化を覚えるとわかりますよ。──そうですね、お父さん?」

「なんだ?神父様」

「あなたが自己強化を覚えた時はどうでしたか? 何かカチリとはまる感覚とか、するりと入ってくる感覚とかがありませんでしたか?」

「ああ、あったぜ。俺の場合はカチリと体の奥で入って、いきなり、今まで使っていたのが何だったのかって思えるぐらい、力に溢れたな」


 他の人もそうだったのかウンウンとうなずいている。

 僕?僕はどうだったかな?何回も倒れた後、起き上がったら体が楽になっていた時があったからあれがそうだったのかな?その時はセカンドウインド来たーと思ってたような。


 「それがこの国で言う魔法の制限解除、教会や冒険者協会ではスキル習得といいますね。ただし、覚えたからと言ってすぐに使いこなせるというわけではありませんよ? 使いこなすためにはそれこそ血のにじむような努力が必要です」


 スキル!!まさかこの世界にもスキルなんてあったんだ。

 僕が色々出来なかったのはそのスキルを覚えていなかったせいなのかな?

 もしかしたらステータスもあるのかな? 赤ちゃんの頃に、唱えてみたけど虚しく響いただけだったから、そのとき諦めたんだけど。

 あんまり、変なことをしすぎて余計なことに巻き込まれるのも怖かったしね。


「強化魔法も、回復魔法が生命魔法の一種だというみたいに大きな括りがあります。大きな括りというのは神様の力の名前がそのままついているので、神様のことをちゃんと覚えているなら、分かる人もいるかも知れませんね」


 後ろから見ると子供達についてきた親御さんが子供に答えろよとつついている姿がチラホラと見受けられた、僕はもちろん知らない。──だから母さん、突かれても知らないってば。


「では……」


 あ、やばい。神父様が見ている。


「レナエルさん答えてもらいましょう」


 セーフ、僕は助かったがレナエルちゃんが……あれ? 動揺してないな。


「力の神様です。神父様」

「その通りです。さすがですねレナエルさん。力の神様すなわち力の魔法ですね」



 教会のあちこちから「すごい」とか「さすがだ」とか聞こえる、レナエルちゃん頭良かったんだ。アダンくんも顔を赤くしてレナエルちゃんを見ている。



「レナエルちゃんすごいね!僕知らなかったよ!」と素直に褒めてみるとレナエルちゃんは赤くなって照れていた。そして、アダンくんは顔を赤くして僕を睨んでいる。なんで!?


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