プロローグ2 魔力とお風呂と妹

夕ご飯も終わり、父と母が上がってきたので次は僕と妹で入る。


「おっふろー、おっふろーにいたんとおっふろー」


 妹が僕の手を握りとても楽しそうに妹いわく「にいたんとおふろ」の歌を歌っている。前は家族全員で入っていたときにはたまに同じ音程の別バージョンとして「かあたんとおふろ」を歌っていた。


 すれちがいざま父が恨めしそうな目で見てくるがこればっかりは仕方がない。

 なにせ父は色々と雑なので妹が嫌がるのだ。


 そのことやゆっくりしたいという僕の願いもあり別れて入るようになった。その時「とうたんとは、もう、や! 」と言われたときの父の顔は見もの……いやとても可哀そうだった。

 一応ある「とうたんとおふろ」の歌はかなしいメロディだ。


    ◇◇◇◇


 お風呂は結構でかく日本の一般的な家庭の湯船の1.5倍はある。

 土魔法で作ったと思われる石造りで大理石みたいにつやつやしている、床も同じく大理石もどきでタイル状に作られている。

 って、僕が作ったんだけど、その時の記憶はない。

 

 家の一角にあるこのお風呂は体の気持ち悪さとお風呂に入りたい欲が極限まで来て限界だったときに無意識で魔法を行使して作った一品だ。

 多分排水はこう、場所はこう、湯船はでっかくって考えていたことがそのまま反映されているみたいだ。

 本来、許可が出たら木の桶みたいな形で一人しか入れない大きさだけど、それならなんとか作れるくらいものを考えていたんだけどね。

 暴走がいい方向に動いたな。


 こいつは何度土魔法を使って創ろうとしても同じ形にはできるけどどうやったって大理石もどきはならない。

 なので人間追い詰められるとものすごい力出るあれだと僕は思っている。


   ◇◇◇◇


 「やっぱり、汚いなぁ」

 「きちゃないなぁ」


 父が入ったあとの湯船は汚い、泥や垢などを湯船で落とすからだ。僕が魔法でお湯を張れないなら我慢して入るしかないんだけど……そもそもお風呂自体が村長家以外にはないし、そのお風呂もほとんど使われてないらしいのでこの村で入ること自体が贅沢なんだけど。

 

 ともかく、可愛い妹にこんな親父汁につからせるわけにはいけない。

 入る前から予想はできていたので魔力励起し内外循環させていた魔力で浴槽を掃除しお湯を張り替える。

 妹に合わせてちょうど肩までつかるくらいで止めておく。

 

 この魔力励起と自分の魔力と外の魔力を回転させて循環させる内外循環は暇を持て余しすぎていた赤ちゃんのときに発見したものだ。

 魔力を増やすため最初は異世界ものでよくある限界まで使って回復させるという方法を試してみたんだけど感覚的に5%まで減った時点で体がストップを訴えた。

 それで止めて回復するまでまちまた使うを十数日繰り返したけれども魔力量はピクリともしない。


 それで一度5%まで減らしさらにここから使用して限界まで使おうとさらに4%ほど使用した時点で、死が見えた。

 あと少しでも使えば確実な死が訪れると僕の本能が懸命に訴える。

 すぐそばまで死が近づいたことで恐怖のあまり心臓は痛い位に脈打ち脂汗をダラダラと流し、もちろん下も大決壊が訪れた。

 

 そして目の前が真っ暗になりながらもこれで魔力が増えるんだと考えた。


 次の日の結果、魔力量ちょっと減る。

 死ぬ思いまでしてこれはひどい……でも、これじゃだめということがわかったから1歩前進ということにしておく。ぶっちゃけあれ繰り返したら精神が病むし。

 大決壊したおしめもいつの間にか変えてもらってるから新たな気分でスタートできる。


 よくあるパターンで次はと考えたら魔物を倒すが頭に浮かんだけどもちろん却下した。父と母がそんな話をしていたから魔物はいるっぽいけど赤ちゃんだしね、僕。

 

 テンプレ以外の方法はないかと目をつぶって魔力に近いものを妄想していく、魔力、MP、マナ、気、霊力、波動、エーテル、プラーナ、チャクラ……チャクラか、記憶の中にある一定の期間にかかる病気のときチャクラの場所を調べたことがあるのを思い出したので、よしチャクラでも開いてみるかと適当に始めて見たらこれが大当たり。チャクラと言っても某忍者漫画の方ではなくインドとかヨガとかのあれだ。


 あぐらは赤ちゃんの僕にはかけないから寝たまんま姿勢で目を瞑る、正しいやり方までは調べてないからチャクラの場所だと言われている場所に魔力と精神を集中しているとじんわりとその部分に魔力が集まり、なんとなく高まってる感じがするのに手応えを感じ、一箇所に集中しては次の日、別の一箇所に集中しては次の日を繰り返した。

 それから集中する箇所を増やしていって七箇所同時までいったら悟りが開けた。

 いや、実際には開いたかどうかはわからないけどそんな気分だった外の魔力が感じられ一体化し自分がどこまでも広がっていく感覚と言ったらいいのか、ふわふわとした気持ちで穏やかなのに全能感が半端なかった。


 時間とともにそれも終わりゆっくりと目を開けると神父様は来てるし母は泣いてるしで結構な騒ぎになっていた。

 これは後で聞いた話だけど、どうやら僕はあの状態のまま七日ほど過ごしていたらしくお乳も飲むし、出すものも出してらしいけど、泣きもわめきもせず、ずっと穏やかな表情を浮かべっぱなしだったそうだ。


 見た感じ健康そのものだから大丈夫という父は楽観視していたが、それでも不安になった母が神父様を呼び見てもらうと、なんでも魔力との親和が高すぎて魔力が外へとの繋がり、それと供に意識も希薄になりそのまま神の元へと帰ってしまう、ということなのだ。特に赤ん坊のときになると危険だとか。


 それから神父様がなにかしたのか自然に目が覚めたのかわからないが神父様が来てから元にもどったわけだ。

 一度起きると体が覚えてしまうので次に起こっても平気ですよと神父様は言っていたそうだ。


 もしかしたらこの子は神に愛され回復魔法が使えるかもしれませんねと帰り際に言った時の神父様の目は獲物を狙うようで少し怖かったと母が言っていた。

 

 つまり、悟りと思ったのは自我が薄くなって死にかけてただけでした。


 色々あったけれどもう一度やってチャクラに魔力を回すと魔力の質が上がり全部開くと外の魔力を取り込むことができるようになった。意識も希薄になるまでにはならない。

 自分の魔力を核に外の魔力使っているので無限になったというわけじゃないし使用するにも集中と時間が結構掛かるけれども、自分の魔力の数十倍ほど使えるようになった。


 名前を変えたのはこんな適当にやったのをチャクラって言ってたら関係者からぶん殴られそうだから魔力励起と内外循環と名付けたわけだ。

 

 これがあるからお湯も好き放題張れるし、無意識状態でバカ力をだして風呂場も作ったのだと思う。

 

   ◇◇◇◇


 石鹸はないのでお湯で優しく髪と体を洗ってあげて身体強化を使って安全性を上げたうえで妹を持ち上げ湯船に入れる。


「はい、ざぶーん」

「きゃー、じゃぶーん!!」


 妹はこれが好きらしく毎回喜んでくれる。


「もっかい!じゃぶーん!」

「はいはい、もっかいだけだよ?」

「うん!!」


 好きすぎて数回にわたってやってやってと求めてくる。

 きりがないので2回までにしてるがさらに要求してくるときもある。

 その時は心を鬼にして、もっかいだけやってあげる。それ以上追加はなしだ。

 でも今日は久しぶりに2回だけでよかったみたいだ。


 妹はお風呂に入るとテンションが上がるらしくおとなしくできない。強く言うわけにも行かず捕まえて抱っこしても足をバシャバシャやるので落ち着かない。

 そこでサブカルチャー大国生まれの日本人だった僕が、「むかしむかしある所に」で始まる話や童話などを異世界辺境ナイズさせて聞かせた所、おとなしくしてくれることがわかり、お風呂に入るたびに聞かせていた。


「あのね、にいたん。あーちぇ、きょうもおはなしききたいの」

「うんいいよ。じゃあ、今日はどんなお話にしようかな?」


 早く聞きたいとワクワクしてこちらを見ている妹に微笑みながら、お話を選び決めた。

「むかし、むかし、ある所に」それを枕詞に、僕の指を人に見立てたジェスチャーを交えつつ今日も物語を語っていくのだった。

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