冬の季節

バブみ道日丿宮組

お題:誰かは冬 制限時間:15分


冬の季節

「はぁ……」

 冬になると思い出す。

 あの子との出会いはきっと天からの贈り物でもあり、奇跡であったと。

 去年の冬はたくさんの出会いと別れがあったけれど、それもまた季節の変わり目のようなもの。1つ1つが素敵な思い出。

「ふぅ」

 しんしんと雪が降る冬の景色はどこが哀愁感を纏わせて、神秘的。彼女の笑った顔がふいに脳裏をかすめた。

「お姉ちゃんどうしたの? どこか痛いの?」

 握ってた手が強く握りしめられた。

 ほんのりと温かい人の優しさ。

「ううん、大丈夫」

 弟はだいぶ良くなった。ううん、良くしてもらったといってもいい。

 あの子である彼女は、弟を治せるといって私にいろんなミッションをやらせた。

 宿題、スポーツ、資格試験、親孝行、ボランティア。

 はじめてやることが多く、苦戦する中で彼女は私に付き添ってくれた。

 一緒なら大丈夫だと言ってくれた。

 弟の病状は1つ1つこなしてくうちに良くなった。

 代わりに彼女はどこか浮かない顔をしたり、疲れやすくなってた。気の所為、見間違いかと思い、何度も声をかけた。彼女はそのたびに大丈夫だと返した。

 そうして、最後のミッションが訪れた。

 それは簡単なことだった。

 屋上から飛び降りるという、命を使う試練。

 戸惑いはあったけれど、彼女の言うことに間違いはないだろうと思った。

 けれど、いざ屋上に立ってみれば、足がすくんだ。

 前に行けと何度も鼓舞しても動こうとはしなかった。

 そんな私を彼女は仕方ないよねと、愛想笑いを振りまいた。

 そして私の代わりに彼女が空を舞った。

 驚きが全身に回ると足が動いた。屋上から覗くのは酷く怖かった。

 彼女が真っ赤に包まれてるのを見るのが怖かった。

 でも、地上には彼女の痕はなかった。

 病院の周りにいた人に聞いても、誰一人として飛び降りた人はいたという風には答えなかった。

 それからしばらくして、弟は退院できるまでに回復した。

「お姉ちゃん。キレイなお花だね」

「そうだね」

 今日は彼女との別れがあった日。

 屋上で弟と二人静かに彼女を想った。

「いこっか」

「うん」

 彼女がいったいなんであったのかはわからない。

 思い出がいっぱいあるのに、いったいそれがどこに消えたのか見えてこない。

 

 あなたはいったい、どこの誰であったのか。


 答えが返ってくることは決してなかった。

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冬の季節 バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

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