君が見たのは
あさひ
第1話 一番目の世界《クルーエル》
空気中に水泡が浮かび青に支配された
息の出来る
「これが《側》?」
「うん・・・・・・ キレイだけど怖いよね?」
まるで自分の認識が正しいのか試すように
聞いてくる彼女に平然と答えた。
「確かに油断すると呑み込まれそうだ」
「ふふっ! 君は本当にわかってるわね」
上機嫌で笑う彼女がまるで海の中で見つけたクラゲと
類似していて
「そういえば海洋研究者が夢だったわね」
「うん、だからすごい幸せかな」
優しく笑う彼女にドキドキしてしまうが
顔に出さないことにした。
「あなたに正直さがあったらいいのに・・・・・・」
「なんで?」
「私のことをどう思っているのかしら? と思っただけなのだけどね?」
「知りたいならもっと教えて欲しいな」
頬を紅潮させながらぷいっと横を見てしまう彼女に
愛しさを隠せてないか不安になったが
どうやら鼓動は気づかれてない。
「こっこれ以上は危ないかもしっしれないから戻ることにしましょうっ!」
「二人だけで考察しようね」
「もっもうっ!」
そうこうしながら目をそっと瞑り
元の世界に戻ってきた。
目を開く頃にはカーテンの隙間から朝日が昇り
サークルの部屋には埃がキラキラと舞っている。
「いつまで握ってるのかしら?」
目を逸らしながら伝えてくる彼女の問いに
行動で答える。
「師匠は嫌なの? 俺の熱を感じてしまうことが」
ひゃっと無理に離そうとする力に抗わず
そのまま彼女は部屋の隅に逃げていく。
「ごめんね? 師匠があまりに可愛いからさ」
「何を言うんですか! 私はあなたより偉いんですよ!」
子供が自慢するかのように
胸を当てて自分の立場を説明している。
可愛すぎるのだ
キレイな黒髪に凜とした視線
さらっと伸びた足に艶やかな上半身
もうこれ以上に感情が動く人はいない。
「聞いてるんですか! 怒ってるんですよ?」
「すみません・・・・・・ あまりに目を奪われてしまいまして・・・・・・」
不思議な顔をして後ろの窓に目を向け
こちらの目線を見てくる。
「何を見ていたのですか?」
「目線を辿ったらわかりますからじっと俺を見てください」
むぅっとじっくり覗き込んでくる彼女に
少し微笑みながら笑いかけてみた。
「なっ!」
「どうしました?」
「なんでも! ないです! ふんっ」
どうやら度が過ぎたらしい
怒ってしまった。
「すみません・・・・・・ 師匠を見ていると
心臓の鼓動が止まらなくて自分でも何してるかわかってません」
「下心でここまで向き合っていることには感謝します」
「覚えてないんですね」
ボソッと呟いた言葉は彼女には聞こえていない。
「まあ、よくあることですから仕方ありません」
「師匠はキレイな上に可憐で本当に深海の水泡を顕現したかのようですからね」
よくわからないと言われる例えも彼女はわかってくれる。
「そこまで純粋ではないですよ」
「俺には眩しいくらいに純粋で側にいて穢れないか心配ではあります」
不意に吐露してしまい
自分の口を押さえた。
「まだそう思っていたんですね」
切ない顔で見つめてくる彼女に
後悔が心に溢れてくる。
そっと手を握ろうと伸ばしたが
あちらから優しい感触が迎えにきた。
「私は《足手まとい》ではないですよね?」
「《もちろん》です!」
即答する俺に驚いて目を見開いたが
すぐに微笑んでくれた。
その透き通った色が好きなんだ
心と魂にそんな言葉が浮かびあがる。
その名をこの大学で聞くと誰もがこう答えるのだ。
【わからないけど近づきたくない】
それは畏怖でも威圧でもなく
ただ雰囲気が怖いという。
「師匠はなんで嫌われるんですかね」
「知らないわ」
バッサリ切り捨てる辺りが
少し隠し事をしているようで悲しい。
「そういえば今日はミルクティーは飲まないんですか?」
「いっ今はダイエット中よ!」
「今のままが一番いいと思いますがね」
「えっ? だって細い方が興奮するって言ってたじゃない・・・・・・」
もしかしてウナギのことだろうか
昨日の話だがシラスウナギは細い方が生き残ると聞いたあとに
もしそれで増えるなら興奮するほど学術的に興味があると言ったけな。
「それは研究のウナギですよ?」
「なっ! 早く言いなさいよ!」
あたふたする彼女は大学内のコンビニを探し始める。
「それだっだら俺の飲みます?」
「えっ・・・・・・ いいのかしら!」
子供がはしゃぐ様に喜んでいたが
一応、飲みかけだ。
「あの・・・・・・」
その言葉を聞く前にハムッとストローに
食らいつく。
チューっと吸ったあとにぷはっと
美味しそうに落ち着いている。
「なんだか時間が経ったかのようでしたが
ナイスな弟子ですね」
「あっありがとうございます」
たじろぐ自分に少し疑問に思ったのか
逡巡するが数秒後にみるみる茹であがった。
「まっまさかですが・・・・・・ 飲んでませんよね?」
「それがですね」
頬をポリポリ搔く様子で理解が及んだのか
顔を両手で隠しながら俯いた。
「わっわたしも落ち着きがなかったですがね!」
「最初に言うべきでしたね」
「その通りですよ!」
周りがクスクス笑っているのはこの頃になって
少しずつ増えていった。
見た目が冷ややかで息を呑む美人過ぎる
近寄りがたいらしく大学一のナンパすら自ら避けているほど。
しかし拭い切れないものがあるらしく
俺も正体不明のそれが難題すぎて研究対象を移そうか悩むところ。
原因は【側の
普通の人にそれは認識できないのは確かで
他の理由というのが浮かばない。
「いつか側にいることを誇りにしてみせますからね」
「ふふっ! いつになることやらですねっ」
そこだけは素直に期待しているらしい
すごい嬉しく思う。
届く日が
君が見たのは あさひ @osakabehime
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