第2話:数奇な運命
「やった!! 英雄召喚成功だわ!! さあ、我が従僕よ! その偉大なる御名を告げよ!」
ヘルトは現状把握しようと周囲を見渡すが、分かるのは、ここが良く分からない場所で、かつ青髪の少女が目の前ではしゃいでいることぐらいだ。
なぜ俺はここにいる? 俺は確かに死んでそのあと――
しかしヘルトの思考は、なぜかその少女の言葉に
「俺は――ヘルト・アイゼンハイム……最強の魔術師だ」
「へ? え? ちょっと待って……その赤髪……その傲岸不遜そうな顔付きと口調……あんたまさか」
「ん? あれ? お前……」
時に、運命とはとても残酷かつ数奇な引き合わせをする。
例えば――
滅ぼされた祖国の再建を願い、起死回生の一手として、英雄を望んだ少女。
「お前は〝赤錆〟のヘルト・アイゼンハイムッッ!! よくものうのうと私の前に顔を出せたわね!! 今が仇討ちの時!! 死ねえええええ!!」
そして、望まず英雄にされ、最後には虐殺者の烙印を押され、処刑された――魔術師の青年。
「お、お前は!
少女――魔術国イングレッサによって滅ぼされたエルフの国リーフレイア森林国の第一王女イリス・リフレインが鬼のような形相で、手に持つ杖槍をヘルトに何度も突き刺す。
しかしその攻撃に手応えはなく、ヘルトの身体をすり抜けるだけだった。
「うわ……やっぱり俺死んでるじゃねえか。なんだこれ」
「死ねええええ!!」
「いや、だから落ち着けって。俺はもう死んでるって」
「きえええええい!! はあ……はあ……中々やるわね……良いでしょう、喰らいなさいリフレイン家奥義――〝エルフ木の葉崩し〟!!」
「だから、やめろって」
ヘルトが呆れた様子で、腕に力を込めイリスの蹴りを受け止めた。
「馬鹿な!? エルフ三千年の歴史の重みが!?」
「……なるほど、魔力を込めると実体化できるのか。面白い構造だな」
ヘルトがイリスの足を掴んだまま、分析しはじめた。
「なるほど、基本構成は魔力の流れによって形質が変化するマナか。見たことないタイプだな。よし、霊子と名付けよう。ふむ、術式は召喚魔術に近いが、天星系魔術の流れもあるのか……興味深い」
「ちょっと! 何冷静に分析してるのよ!!」
「そういや確か古い文献にあったな……無限の魔力を持つハイエルフのみが使える召喚魔術……ああ、そういうことか」
「はーなーせー!!」
イリスの言葉と同時に、ヘルトは、無意識で手を離してしまった。
「きゃっ!」
いきなりヘルトが足を離したせいでイリスがバランスを崩し地面へ、べちゃりと落ちた。
「……ちっ、しっかり使役の呪縛を入れてやがったか。小娘のくせに生意気な。これ、解除すんのめんどくさそうだぞ」
ヘルトが意思に反して動いた手を、見つめながら悪態をつく。すぐにそれに解除する魔術を組み上げるも失敗。どうやら、中々に手強い呪縛のようだ。
「聞こえてるわよ!! なんで……なんであんたなのよ!! 私は英雄を喚んだのよ!! 生者であるあんたが来るのもおかしいし、そもそもあたしはこの星最強の魔術師を喚んだつもりだったのに! 大失敗じゃない!! 魔法陣も吹っ飛んだしもう二度と再現できないわ!!」
イリスは半分泣きながら、ヘルトの胸を叩いた。
その顔を見て、全てを察したヘルトはゆっくりとため息をついた。
「だったら、小娘。お前の召喚魔術は間違いなく成功している――俺ならさっき……いや時間の経過は分からないが、少なくとも俺が死んだのは間違いない。俺が英雄かどうかは知らないが……死んで過去の人となった俺が英雄の候補となったのは、間違いなくその〝
ヘルトは自信たっぷりにそう断言した。
現状把握は出来た。色々と皮肉なことが起きているが、ひとまず再び現世に帰ってこれたことは喜ぶべきことだ。
「……偉そうに。ヘルト・アイゼンハイム! お手」
そう言うと同時に、イリスが手を差し出した。
それに対しヘルトは何も考えずに犬のように手を差し出した。
「お座り」
「おい!」
犬の真似をして地面に座るヘルトが眉をつり上げた。
「てめえ! ふざけん――」
「ワンと吼えて、伏せ」
「ワン! ってお前ぶっ殺すぞ!!」
地面に伏せながら怒鳴るヘルトだったが、イリスがその姿をにやりと笑いながら見下した。
「ふふーん。あんたは私の命令には絶対なのよ。次、舐めた口を利いたら、一生犬扱いしてやるわよ」
「……まずはイングレッサのアホ共をぶっ殺そうと思ったが、止めだ。今度こそクソ長耳共を滅ぼしてやる!! まずはてめえからだイリス!!」
「かかってきなさい、
こうして、神聖なる儀式の場である〝賢者の根〟で、何ともレベルの低い喧嘩が繰り広げられたのであった。
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