第89話

俺は開拓村から始まった。

草木が何一つ生えることが無い生命のかけらもない土地の開拓から始まった。

鍬が折れる地面から始まった。

飢え死にするような人たちが出る村で始まった。


始まりは一匹のスライムから始まったのだ。


「なんかな。」

「どうしたのユート?」

「いや、少し昔を思い出していただけだ。」


もう開拓村と呼べるものは無い。

もう草木が生えない土地は無い。

もう鍬が折れる地面は無い。

もう飢え死にする人たちが居る村ではなくなった。


代わりに国ができた、

代わりに緑が生い茂る生きとし生ける生命の鼓動が聴こえる土地ができた。

代わりに手で触っても怪我をすることのないフカフカの土でできた畑が広がった。

代わりに飽食の都ができた。


国名をホウショク、そう名付けられた。

村長とユートが話し合った結果そうなった。

ユートは貴族にもなれたが面倒だからと言って断り代わりに宮廷スライム師の称号を受けた。


「満たされないのか…………」

「今まで開拓をしているだけで満たされていたもんね。」

「なら旅にでも出たら変われるか。」

「うーん、ユートは何がロマンがあると思う?私は開拓民だったから開拓することが楽しくて堪らなかったよ。」

「俺が楽しかったものか。」


何かを我武者羅に追い求めているとき

なんでもできそうな感覚になっている。

誰からも邪魔はさせない。

漠然と生きるのではなく。

漠然と生き抜くことに一所懸命だった何もかも全力でやらないと死ぬかもしれない環境がある意味充実した環境だったのかもしれない。


やすらぎを求めていたはずなのに気が付けばやすらぎを見ることが無くなった。

いざ手にしてみれば求めてやまなかったはずのモノがガラクタ同然のように見えてくる。


「わかんないな。」

「なら少し走らない?」

「マリアンヌ、来ていたのか。」

「当然でしょう。告白をもう一度やり直しに来たんだから。」

「で、なんで走ることに意味があるんだよ。」

「意味はないわ。でもやってみなくちゃ解らないもの、じゃあ競争よ。ヨーイドン!」


昔もそうだったかけっこをするときに自分が負けないようにスタートを言うのはいつもマリアンヌだった。

それでも俺が勝てるんだけど負ける度に泣き叫んでいるからうるさかった。

だが今はそれを聞いても悪くはないかもしれないと思った。


「ちょっ、なんで私より早いのよ。私は勇者なのよ!」

「努力を怠った結果だろう。」

「そんなの関係ないじゃない。ユート違って訓練量は私の方が多いのよ。」

「努力にはいっぱい方向があるからどれか間違ったってことだろうに。」


やっぱりガミガミ言われるのは嫌だ。


「…………ん……………………」


「ったく。」


「きちんと歯も磨いたし、お風呂にも入って香水までつけた私のキスは告白を受け入れてくれるだけのキスに成りましたか?」


答えは決まっている。


「Noだ!」


彼らが結ばれることになったのは少なくとも村長、国王が生きているときだったという。

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