5、獲物を屠る凶獣と、真・冒険者登録イベント

「大丈夫、トーキは私が養う」

 トーキの目的が"冬眠"であることを聞いたゾォンの答えが、これだった。



 狂気ゾォンと再会した後、街に連れて帰ろうとしたトーキは、街の入り口で足を止めた。

 街へ入ることに特に制限などは無い、"モンスター"以外は。果たして赤いナニカ返り血と土で全身塗れ、手製の鈍器ツノイノシシの頭を持った狂気ゾォンを、ちゃんと人間として判定してくれるだろうか……。


 迷ったトーキは、一旦ゾォンを川で洗うことにした。

 入水し全身を洗い流したゾォンは、服はボロボロながらも、"見た目だけ"なら金髪の美少女エルフになった。

 夕日が照らす中で金糸のごとき髪が濡れ、水が滴る様子は一枚の絵画のようだった。一瞬ドキリとしたトーキだが、彼女が紛れもない凶獣であることを思い出し、すぐに気持ちは萎んだ。

 なお、ゾォンは渋ったが、手製の鈍器ツノイノシシの頭は川に投げ捨てた。


 無事門番を通過し、なけなしの金で服を新調し、トーキはゾォンを宿に連れ帰った。

 今日はここに泊めるから、明日にはドイナカン村へ帰ってほしい。という淡い期待を抱き、トーキが自身の目的を語った結果が、冒頭の発言である。



「トーキがしたいことが私のしたいこと」

 ゾォンがにじり寄る。トーキが一歩下がる。

「いや、でも、村にはご両親も──」

「大丈夫、"説得"した。帰ってこなくてもいいって言っていた」

(ちょっと待て! 怖い! どんな説得したの!?)

「でも、冬眠すると俺寝てしまうから……」

「大丈夫、春まで待てる」

 ベッドの上に逃げるトーキと、それを追って更ににじり寄るゾォン。

 四つん這いで近寄るゾォン、その服の緩い首元から、中が覗けそうになる。いや、そこには絶壁しかないのだが。

「トーキなら私を好きにしていい」

 目線に気が付いたのか、ゾォンはトーキを誘う。だが、トーキにとっては死刑台への誘いにしか聞こえない。トーキはそんな男のサガを呪う。

「いや! そこは、ほら! ここ宿だし」

「大丈夫、今はここには二人しかいない」

 宿に連れ帰ったのは最大の失策であったと、トーキはこの時ようやく気が付いた。

「大丈夫、痛くしない、トーキは楽にして」

「なんか違うくない? たぶんセリフが逆!」

 胸元から顔全体まで、ゾォンは上気し赤く染まる。反比例してトーキは蒼く染まった。

「そうだ、一旦落ち着こう! 落ち着いて、むぐっ」

 獣のような俊敏さで"獲物トーキ"に飛び掛かる狂気ゾォンに、彼は反応することすら許されず、物理的に発言を止められ、あっさりと口内を蹂躙された。

 その後は捉えた獲物を肉食獣が捕食するように、トーキは存分に貪られ、搾り取られ、数回"事"が終わった後にはトーキも"もうどうにでもなれー"と諦めの境地に至った。




 朝チュンを迎えた翌日。トーキ同様に冒険者になるというゾォンを連れ、冒険者酒場へ向かった。


 ゾォンは酒場の扉を開く。まだ朝とはいえ、酒場にはそれなりの数の客が居た。その客が一斉にゾォンを見る。

「あれ?」

 ゾォンが"冒険者登録申請書"を記入し、"登録箱"に入れようとしたところで、ベテランらしき冒険者が箱の口を塞いで邪魔をした。

「あれ?」

 ベテランらしき冒険者を腕力でねじ伏せ、傍観していた冒険者たちからのヒューという口笛を背に、冒険者酒場を出るゾォン。周囲の視線は敵意と羨望の入り混じった複雑な物だった。

「あれ?」


 酒場を出たゾォンとトーキ。トーキは酒場を振り返り、

「なんで、俺の時に無かったイベントが盛りだくさんなの?」

 一人呟いた。

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