探偵のせがれが仕方なく探偵をやる話

ナツキ

プロローグ

 探偵なんて絶対にならない!


 初めてそう思ったのはいつだっただろうか?

 

 恐らく一般の人は探偵という言葉を聞いて、ドラマやアニメ等の創作に出てくるカッコいい探偵をイメージするだろう。捜査が難航を極めた警察から事件解決のための協力を求められたり、あるいは、偶然巻き込まれた殺人事件を推理で解決する……といった感じではないだろうか?


 しかし、探偵である父――滝川佑真たきがわゆうまをもち、探偵という仕事を間近で見てきた俺からしたらそんなのはただの虚構でしかないことは口を大にして言いたい。


 父の元へくる依頼といったら、配偶者に対しての不倫調査とか、逃げたペットの捜索依頼といった、とても話にできるようなものではない、面白さに欠ける地味なものばかりであった。おまけに(これはただの父個人への愚痴ではあるが)父は息子をほったらかして何日も家を留守にしたり、探偵以外の生活能力が皆無であった。特に生活能力に至っては壊滅的というしかなく、何年か前に珍しく父が料理を作ることがあったのだが、米を洗剤で洗おうとしたり、ガスコンロの元栓を知らなかったのには唖然とした。当時小学生だった自分よりも低いのは情けないを通り越してあきれてしまったものだ。なお、余談ではあるが、その時父が作った料理の出来がひどすぎて、結局出前をとることになったのと、父がまき散らした食材と煤で荒れたキッチンの後始末を俺がしたのは言うまでもない。


 まあ、そんなこんなで探偵としての仕事の現実、探偵である父への侮蔑、といった主に2つの理由から俺が探偵になることは絶対にないと思っていた。




 ……まさか、俺が探偵になるような事態が起きるとは一ミリも想像していなかったからな。


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