大武侠峠

大部屋創介

第1話

「果たし状」と達筆で大書されたその手紙は、ステキなラブレターとはほど遠い代物だ。

「こんな煮ても焼いても食えそうもない物をどうしろって言うんだ」と手紙を開くと次のような用件が書かれていた。

『――五月十日月曜日の一七時、学園の闘技場で決闘を申し込む。武侠が強者と立ち合うことに理由などいらぬ。差し出し主・長門正剛』

 こりゃ参った。長門って言ったら学園でも相当な腕っ節を持つ巨漢だ。

 長門正剛、身長一九五センチ、体重一〇〇キロ。

 その男の剛拳は、コンクリートを破壊してしまうほどだと言われ、肉体はどんな攻撃にも耐えてしまいそうな屈強な身体だ。

 そして喧嘩はいつもどんな相手でも一撃で終わらせてしまうのである。

 単純な話だ。どんな蹴りやパンチも全て受けながら長門が接近し、長門が相手に鉄拳を喰らわすと、相手はひとたび吹っ飛んでいき、人体は滅茶苦茶に破壊されるという常軌を逸した腕っ節の強さだ。

 そんな相手から果たし状を送られたのは童顔で小柄な何処にでも居そうな男子高校生の東鬼健斗しのぎけんとだった。

「一刻も早く学校から逃げよう! あんな人と東鬼くんが決闘なんてしたら殺されちゃうよ・・・・・・!」

 放課後の下駄箱で健斗と一緒に帰ろうとしていた望月聖華は青ざめていた。

 聖華は黒髪の両端を触角のように縛った短めなツインテールの髪型に一五三センチと体格は小柄ながら容姿は抜群に良い女子生徒だ。

 聖華は健斗の身を案じ、早く学校から逃げ出そうと提案するが、健斗は「ちょっと、うんこしてくる・・・・・・」と言い残し、学園の闘技場のある方向に向かって行った。

「大変だー・・・・・・」

聖華が慌てふためいていたら、ツリ目にサイドテールの髪型に腰には刀を帯刀した女子生徒、早乙女美沙が下駄箱を通りがかった。

「ん、聖華どうしたのだ?」

「うえーん、美沙ちゃーん! 東鬼くんが殺されちゃうよー!」

 聖華は健斗に送られてきた果たし状を美沙に見せた。

「おぉ! この決闘はかなり気になるな。特等席で見物しようか」

「そんなのん気なこと言っている場合じゃないよ!」

「そうだな、この一戦を見逃すわけにはいかないな、急いでポテチとジュースを用意して観に行くのだ」

 美沙は駆け足で購買部へと向かい、聖華は泣きそうになりながら立ち竦んでいた。

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