第6話 動き続ける動かぬ証拠


「三年前ですか……そこまで古いとなかなか難しいかもしれませんね」


 『キッチンサカノ』のオーナー酒野潤平さかのじゅんぺいは俺の説明を聞き終えると、それは難題だとでも言うように整った髭を撫でた。 


 沙衣が丸一日、姫野朔美の霊と接して得た情報の中に『キッチンサカノ』の名と大垣と食事をした時のおぼろげな記憶が混じっていたのだ。特に俺が注目したのは、食事をとっている最中に他の客が店から受けたサービスの部分だった。誕生日らしい客に対して店が歌のプレゼントと動画撮影を提供したというのだ。


「サービスとして店内で撮影された動画は、お客様柄のご希望に応じて提供させていただいていますが、希望がなければしばらく取っておいた後、破棄しています。三年前では、さすがに……」


 俺は落胆した。すぐ近くで撮影していたという朔美の記憶が確かなら、誕生日サービスの動画に大垣と朔美が映りこんでいてもおかしくないと睨んでいたのだ。


「では過去に動画を提供したお得意さんの中で、今でもお付き合いのある方はいますか?」


 望み薄かなと思いつつ食い下がってみると、酒野は少し考えて「そう言えば」と言った。


「常連さんご本人ではありませんが、常連さんのお父様でよく来られる方が一人いらっしゃいます。……あの窓際に座ってお茶を飲まれている方です」


 酒野が向けた視線の先には、七十代くらいの品のよさそうな男性客がいた。俺は「ありがとう」と小声で礼を述べると、窓際席の男性客に近づいていった。


「おくつろぎのところすみません、私、こういう者ですが少しお話してもよろしいでしょうか」


 俺が低姿勢で話しかけると、男性客は「警察の方……なんでしょう」と訝しむように首をかしげた。


「実は三年前、この店で撮ったビデオの中にご子息の誕生日記念の動画がありまして、そこに我々が探している証拠が映りこんでいる可能性があるのです。もしご子息が今でも動画をお持ちでしたらお見せいただけないかと思いまして」


 俺は営業マンのような口調に刑事の凄みを巧みに織り交ぜ、男性に協力を打診した。


「その動画でしたら、おそらく私の元にもあるかと思います」


 予想外の返答に俺は思わず小躍りしそうになった。


「……ただ古いパソコンに入っているので、ハードディスクを外して動画を探して下さい。ついでに本体も廃棄していただけると助かります」


「本当ですか?もしよろしければ今からでも取りにうかがいますが」


「ええ、構いませんよ。歩いてもさほどかからならい距離ですから」


「ご協力、ありがとうございます。動画の入っているフォルダ名を教えて頂ければ、他のファイルには触れませんのでご安心を」


 俺は丁重に礼を述べると、沙衣のところに引き返した。


「やったぞ、証拠と言えるかどうかはわからないが、自白に繋がる糸が見つかった」


 俺は沙衣に男性を車のところまで案内するよう言い置くと、身を翻して店を出た。


               〈第七話に続く〉

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