第2話 ビジネスパートナーは彼岸から


 俺の名は朧川六文おぼろかわろくもん。刑事だ。


 俺のいる部署は再捜査専任特務班という名称で、まあ早い話が未解決事件の洗い出しを受け持つ部署だ。


 特務班などと聞くとテレビ好きの御仁はエース級の刑事を集めたエリート集団を連想するかもしれない。だが、実際は厄介者ばかりを集めた吹き溜まりの部署に過ぎない。


 所属する警察官は俺を含めて四名。部長刑事の壁倉、俺、先月加わったばかりの女性刑事、ポッコこと河原崎沙衣、そしてケン坊ことケヴィン犬塚の四人だ。


 ちなみにポッコというあだ名は鳩に似ていることから俺がつけたものだが、本人は気に入らないらしい。贅沢な後輩だ。


 ポッコとケン坊が入ってくるまで、この部屋には俺とダディの二人しかいなかった。それで職務が務まるのかと首をかしげる向きもあろう。もっともな疑問だ。俺は人間としては一人だが、俺の中には優秀な相棒が潜んでいて常に俺と行動を共にしているのだ。


 そいつの名は死神。


 俺は数年前、アパートで強盗に襲われ生と死の境をさまよった。その際、この世とあの世の狭間で出会ったのが死神だったというわけだ。


 俺と出会った時、奴は現世でタッグを組む人間のパートナーを欲していた。たまたま波長が合ってしまった俺は、奴からの申し出を一も二もなく受け入れた。


 つまり仮の魂を注入され、甦る代わりに現世でさまよう浮かばれない魂の回収を手伝うという契約を交わしたのだ。


 以来、俺は殺されても死なない不死身のヒーロー紛いの身体となり、ついでに死者の声が聞き取れるというオプション能力まで授かることとなったのだ。


 この能力のせいか、俺は凶悪犯罪や冥界の亡者たちが絡むまがまがしい事件にやたらと縁がある。俺が担当する事件――つまり迷宮入り事件の犠牲者が成仏する際、浄化された魂を持ち帰るのが奴の現世での仕事だ。


 死神の世界にも営業成績やノルマがあるらしく、上部組織に魂を上納することで『正規の』死神になれるのだそうだ。


 成仏した魂はその後、上部組織の手によって転生させられるという話だが、本当かどうかは知らない。俺は現世での仕事が忙しく、あいにくとまだ三途の川の向こう側には行ったことがないからだ。


 後からわかったことだが、実は後輩の二人も俺とはまた違った能力を授かっている。俺たちは毎度、亡者が一枚噛んでいる案件に巻きこまれ、三途の川の一歩手前で事件を解決しているのだ。


 だが俺たちにとって最も恐ろしいものは、凶悪犯罪者でも冥界の亡者でもない。使えるものはたとえ死神だろうと容赦なくこき使う悪魔、我らが上司こそが最強の敵なのだ。


                〈第三話に続く〉

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