乱世のカルマ

ヒナハタ フロウ

第1話 流星の民

 天を突くかの如くそびえる螺旋塔らせんとう

 各地に点在する高度な文明遺物の一つであり、その偉容からかつての支配者の墓標とも、あるいは天上の神に至る禁忌の回廊とも言われている。

 遺物は風雨、戦渦にさらされようと数千年もの間朽ちることなく存在し続けた。


 遺物とは何なのか、果たしてその起源とは……。

 人の手では到底及ばぬ高度な文明遺物ではあるが、言い表せぬ、どこか人の遺伝子の中に残る懐かしさの感覚、あるいは圧倒的な無機質による隔絶されたもの。

 人々は信仰の拠り所として遺物を崇め、時には権威の象徴として奪い合っていた。

 遺物は遺宝いほうとも呼ばれ、遺宝をめぐる争いが絶えぬ乱世が続く。


 そんな乱世にあっても、螺旋塔はその偉容により戦渦を免れ、人々の信仰、巡礼の地として繁栄を続けていた。

 螺旋塔には守人もりびと——流星りゅうせいたみが存在する。

 螺旋塔を中心に里を形成し、各地から巡礼者の受け入れ、祭事を執り行う民である。


 流星の民は平穏にして実りある日々を送り、天寿てんじゅを全うする。

 しかしその天寿、世の平均寿命を全う出来る者は稀であり、時に幼少にして訪れる不可避で無慈悲な運命であった。

 流星の民の運命、それは発症すれば数ヶ月のうちに命を落とす先天的な病を持って生まれ落ちる。

 発症して数ヶ月で数十年の如く身体は老い、命をむしば奇病きびょうと共に絶命する。


 まるで流星が人生の尾を引き、一瞬のうちにその輝きを失うように。

 あるいは螺旋塔の加護への供物が命であるようにも。

 それが流星の民である所以。

 流星の民は畏れと共に全てを受け入れ、訪れる運命を神の迎えと仰ぐ。


 そこに一人の男が現れる。

 名をよろず創世そうせい

 遺宝探求者——ディガーの中でも名の知れた男だ。

 遺宝は建築物のみにあらず、遺された高度な技術、情報もまた遺宝である。

 創世は遺された情報である書物、記録デバイスをあさっては、解析、翻訳を可能にする賢者でもあり、遺宝を用いた数々の遺宝具をも生み出してきた。

 

 人々の生活をより豊かにするための遺宝具の技術、創世自身そう願う。

 しかし、その大半は乱世において遺宝兵装いほうへいそうとして軍事技術へと転用されてしまう。

「万」の家系は代々知識の頂点に君臨し、万の教えを修了した者には「万屋よろずや」の姓が与えられるほどである。


「病から里人を救う術有り。その兆しあらば、我に命を預からせて頂きたい」

 創世の言葉を反芻はんすうした後、面会に応じた里長さとおさの表情が強張る。

 年長者が里長を務める慣習、里人の死を見つめ続けた者の凄みを感じさせる。

「客人とはいえ、余所者が民の運命に口を出してはいかんよ」


 隣国からは呪いとさえ揶揄やゆされる螺旋塔にまつわる奇病。

 その呪いあればこそ他国からの干渉とは無縁、戦渦を免れ小さな里は繁栄し続けることが出来たのだ。

 病を治癒されようものなら呪いははらわれたとされ、隣国の干渉を受けるかもしれない。

——万病皆無まんびょうかいむ、創世の術。民の命を救う術が、まさか里を滅ぼす術になろうとは……。

 里長は彼に一晩の宿を与え、明くる日に里を発つよう命じる。


 里長の離れにて夜空を眺める創世。

 門には余所者を外出させまいと守衛が張り付いている。

——これでは一夜の監獄だな。

 ため息をつき、だが見上げるは満天の星空。

 無限の闇に取り込まれぬ光を放つ星々の下、恐ろしい奇病とはまるで無縁、神秘的な光景が広がっている。


 流れ星一つ。

 願いをかければ叶うとも言われる事象。

 創世にとってそれははかなき命を燃やす流星の民に限らず、この地上のどこかで落命した者がいると思えるだけであった。

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