三
その日の夜、俺が経営しているBARにていつも通り出勤していた。
週末という事もありかなり混んでいて忙しかったが、今日も無事に一日を終える事が出来た。
「お疲れ様です」
赤くて長い、艶やかな髪が揺れる。
彼女は俺にそう告げるとパッチリとした瞳で冷ややかな視線を向けてきた。
「神楽さん、香織にまで手出したんですか?」
この店の経営を手伝ってくれている赤髪の彼女、“
「そんな事してない。具合悪いって言ったらお見舞い来てくれただけだよ。葉月にまでそんな事言われなきゃいけないの〜?」
「説教の先客がいたみたいですね?ほんといい加減にしてくれません?」
葉月は言い訳を聞いても、決してこちらの味方にはなってくれない。
「う〜ん、葉月ならわかってくれると思ってるんだけどな…」
俺のセリフを聞くと、彼女の眉がピクっと反応した。
内心、選択肢を間違えたな、と死ぬ覚悟をした。
「神楽さんに悪気がないのはわかってるつもりですが、それが良くないんです。誰も彼もにいい顔して、浮つかせて期待させて」
「俺は思ってる事を言ってるだけなんだ、本当に」
「知ってます。それでもです。あなたは自分の行動が周りにどんな影響を及ぼすか全く理解してない」
途端に早口で捲したてる彼女に、それ以上言い返せなかった。
思わずため息が出てしまう。
それを見て、葉月は少し罰が悪そうな顔をした。
「……お疲れの所すみませんでした。
でもこれだけは覚えておいてください」
「うん、何?」
彼女は表情を崩さず、一息ついてから口を開く。
「貴方の言葉は人を惑わす。
いつか痛い目見ますよ。」
そう言うと、簡単な会釈だけして彼女は踵を返し去っていった。
こんなにハッキリとモノを伝えられたのは初めてかもしれない。
彼女なりの警告だろうが、俺にはわからない。
目の前のモノがそうだと思った時、そのままの言葉を口に出す。
人はそれを弄んでるだとか、浮気者だとか、散々な罵詈雑言を浴びせてくる。
言葉も行動も、思ったままの事しかして来なかった。
わかるのは、わからないという事だけ。
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