気づけば、涙は枯れていた。

大歓声の中終えたステージは、まるでおとぎの国から帰ってきたかのようで、言葉で言い表せない達成感と、現実と夢との区別がつかない寝起きのようなふんわりとした心地良さが漂っている。

未だに妄想の中を彷徨っているような、不思議な気持ちだった。


楽屋に戻るや否や、隼人がこれでもかと言うくらいに泣き喚いていて、少し可愛く思えてしまった。


「叶多さんは居たんですね、ずっと、それがもう俺嬉しすぎて、いや悲しいんですけどもうよくわかんなくて」


隼人は言葉にならない言葉をずっと吐き続けているり

自分でも何を言ってるか分かっていないようだ。


そんな隼人に碧は優しくハンカチを渡す。


「魔法は解けましたよ、音無さん。

私は碧です。これからはこの4人で、Recollectionとして活動していくんです」


「…そうだったね碧センセ」


隼人はハンカチを受け取り、ひと呼吸おいて、いつもの調子に戻った。


「俺、ずっとあの人の隣で歌いたかったんだ。

あの人が死んでから、こんなに幸せな事1度もなかった。もうなんて言ったらいいかわからなくて死にそう」


隼人は綺麗な白色のハンカチに顔を埋めながらそう語る。

僕には到底気づけなかった願いだ。

隼人が歌いたかったのも、それが叶多の隣で、だという事も全部。


碧は隼人の頭に手を伸ばすと、静かに撫ぜた。

そして僕の方を振り向く。


「もしかしたら不快な思いをさせちゃうかもしれないと思ってましたが、上手くいきました。

ただのトレースではあるんですけどね。

お2人とも見切りがつけられていなかったようなので、叶多さんに助けてもらいました」


碧はそう言うと、ふふっと無邪気な笑顔を咲かせる。


「いやあ参ったよ碧ちゃん…本当に天使だったんだね…」


「お前はキモいし場違いだから黙れ」


「なんで俺にだけ当たり強いのかな!?こういう時くらい素直になったらどう!?」


神楽と隼人はこっちの気も知れず、じゃれ合いを始めた。

碧はその様子を楽しそうに眺めた後、僕にこんなことを言う。


「叶多さんに会えたようでほっとしました」


「碧のおかげだ」


「いいえ。叶多さんが言ってたことをやっただけです」


「え?」


思いもよらない返事に、動揺を隠せなかった。


「“私が死んだ後、そのまんまじゃ絶対に前に進めないだろうから1度だけ会わせてやって“と。

ここまで全部お見通しだってワケです」


叶多が言いそうなセリフに、また少しだけ泣きそうになってしまった。


天界から舞い降りてきた天使の如く、彼女あおいは“彼女かなた“を完璧にこなした。

僕と、隼人の願いを叶える為に。

あの感動と手に握った汗の感触を忘れる事は無いだろう。


「死んだ後もおちおち寝てらんないんだな、あいつは」


「そういう事ですね。

本当に、叶多さんはすごい人です。」


隣の少女は、そう言って

僕らとは少し違う表情をうかべる。


どこか遠くを見つめる瞳は、いつもの“綺麗だ“という印象には程遠く。


暗くて一切の光も届かない、深海のような、底がない沼のような、どす黒く冷たいものを感じた。

それは初めて抱く違和感。



それと、少しの恐怖だった。



すぐさま問おうとした時、遮るように彼女が口を開いた。


「さて、そこで遊んでるお2人とも、お腹減ったのでご飯連れてってくださいな〜」


「遊んでんじゃねーよ!こいつの減らず口縫い合わせてやろうとしてんだよ!」


「怖い怖い!野蛮だよ隼人くん!助けて碧ちゃんなんとかして〜〜…!」


そそくさと2人の元に駆け寄った碧は、僕の方を一切見なかった。





Aoi 失踪マデ、後騾乗?縲∬ヲ九↑縺?〒日…__

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