五
何曲か繰り返すうちにどっと疲れが来てしまい、1回休憩を挟むことになった。
「おはようございます」
僕がペットボトルを一気に飲み干すところで、隼人が起きてきた。
「音無ー!いつまで寝てんだ!リハやんぞー!」
神楽は、疲れなど一切感じさせない陽気な声で隼人に絡む。
隼人は心底鬱陶しそうな表情で「うす」と返事をしながらステージに上がってきた。
「じゃ、行きますか」
僕が声をかけると皆は「準備は出来てる」と言いたげに頷いた。
既に連携はバッチリだ。
僕らはその後何時間もの間、リハーサルに明け暮れていた。
スタッフさんに声をかけられるまで時間を忘れていた僕らは、開演2時間前にしてようやくステージから引きあげた。
楽屋で待機している僕らは、披露する曲の最終確認をしていた。
「この日の為に書き下ろした曲以外、叶多がいた時のバンドの曲ばかりだ。今日来てくれるお客さんの中には前のバンドのファンも多いだろう。出来としてかなり比べられるかもしれないけど、大丈夫そうか?」
僕は碧にそう問いかける。
碧は真っ直ぐな目で僕を見る。
「大丈夫です。やれる事は全部やるつもりです」
「そう言ってくれると助かる」
僕よりかなり年下だが、既にしっかりしている。
頼れるバンドメンバーだ。
今日の初ライブでは叶多がいた時のバンド「EGOISM」を復活させ、新しい名前と新体制で始めることを公表する。
叶多の死は伏せるが、急にボーカルだけ変わる事に対して批判も来るだろう。重々承知の上だ。
その上で、どれだけお客さんの心を動かすパフォーマンスを出来るかがとても重要になってくる。
僕も久々の作曲で手が震えたが、碧の為、そしてバンドともちろん自分の為に一生懸命にやり遂げた。
この日まで十分すぎるくらいの練習を重ねたし、きっと成功するに違いない。そう願っている。
楽屋のドアが開き、スタッフさんが僕らを呼び掛ける。
本番の時が近いようだ。
僕らは顔を見合せ、椅子から立ち上がる。
舞台袖に行くと、既にお客さんのざわつきが聞こえてきた。
一気に緊張が走る。
僕らは4人、円になり肩を組んで下を向いた。
「落ち着いて、やり抜こう」
僕が小声でそう言うと、他の3人は小声で「オー!」と答えた。
それを聞いて気合が入ったと同時に少しほっとする。
いよいよ、僕らの旅の始まりだ。
碧がマイクを持ち、舞台袖からステージに向かって歩き出す。
「Recollection」初LIVEまで、あと1分。
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