二
ポンッ
とスマホの通知音で目が覚めた。
夜勤のバイトが終わってすぐ倒れるように寝てしまっていたらしい。
寝ぼけ眼で枕元をまさぐり、スマホを手にとる。
そこに表示されていたのはRecollectionの新曲投稿通知だった。
心臓が跳ね上がる。予告も何もなかったはずなのに。
《ーーーー♪♪》
動画をタップすると、流れてきたのは心地よいピアノの音だった。
それと同時に弾いている人物に目を凝らす。
腰まである青髪、白い手、細い指がたどたどしく音を奏でている。
間違いなく "Recollection"ボーカルのAoiさんである。
慣れない手つきではあるが何故か違和感を感じさせない。疲れが緩和されていく。
思わず、ピアノも弾けるんだ…と感嘆を漏らす。
暫く経つと、Aoiさんの歌声が聞こえてくる。
弱々しくて、悲哀に満ちた歌声。
それが酷くピアノソロの雰囲気とマッチしていて、とても完成度の高い曲になっていた。
こうして僕は毎日のようにRecollectionに触れている。新曲が来れば心踊り、ライブがあればすぐに駆けつけている。
そういえばAoiさんは、記憶の手がかりを掴んだのだろうか。
Recollectionのボーカル、Aoiさんは記憶喪失だ。
どうやらその記憶を取り戻す為に音楽に携わっているらしい。
僕は何も知らないし、何もお手伝い出来ないのだが密かに応援している。
記憶が無くなるってどれだけ不安なのだろうか。
わずか18歳の少女が抱えきれるものではない気がする。
そんなことを考えていると目の前の景色がぼやけてくる。まだ眠い。
僕はRecollectionの素敵な新曲をもう一度再生する。そしてゆっくりスマホを置いた。
二度寝の準備である。
ふっと意識が落ちそうになった時にスマホの通知音が鳴った。
睡眠を妨害され、半ば苛立ちながら画面を見る。
そこに表示されていたのは理解し難い文面だった。
"Recollectionを応援してくださっている皆様へ
大切なお知らせ"
当バンドメンバー "Aoi" と先月から一切連絡が取られない状況にあり、只今警察に届け出をし捜索中である事を遅ればせながらご報告させて頂きます。
ファンの皆様には多大なご心配とご迷惑をお掛け致します事を_______
また、心臓が跳ね上がる音がした。
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