あの夏の日、私は君になりたかった。
1、
「いぬじゅん」氏の『あの夏の日、私は君になりたかった。』
王道青春恋愛小説だ。
著者は、ケータイ小説『野いちご』で活動されているそうだ。
私も少女時代、『野いちご』には大いにお世話になったことを思い出した。
「めんどくさい。だるい。つまらない。」
主人公の亜弥は、そう思って日々生活をしている。
思春期の少女が感じる、自身や社会への小さな抵抗。漠然と感じるけだるさ。
「果てしなく退屈で、学校にいても家にいても逃げ出したい気持ちが、へどろみたいにしがみついていた。」
2、
「近付けばイヤな部分が見えるし、あいまいな距離だとうわべの対応がめんどくさくなる。」
「誰かと深い関係にならなければ、さみしくなることも悲しくなることもない。」
「大人はいつだって人によって真逆のことを言う。」
深いようで浅い、浅いようで深い、大人が聞くとしょうもない些細な主張のようで、しかし納得できる、女子高生のリアルを表現している。
大人になると忘れてしまって書けなくなるような、女子高生が感じる憂鬱がきれいに表現されていた。
3、
そんな亜弥がいろんな人と出会い、変わっていく。
その中でも特に、恋心を抱くようになる「リョウ」の存在は大きい。
最初は、青春恋愛小説によくあるような、不良のヤンキーな少年なのかな、と思った。
しかし、少し違った。それは、「Bar」だと思っていた彼の夜のバイト先だったり、明るい髪の理由だったり……で、分かってくる。
4、
この小説には、小さな謎がたくさんちりばめられている。
「自分を助けられるようになること」って?
「深夜カフェ〝PAST〟」のもうひとつの意味は?
うさぎさんとリョウの関係は?
伊予さんは誰?
「強く引っ張って」って?
高校時代の青春を感じられる1作であった。
いぬじゅん(2020)『あの夏の日、私は君になりたかった。』,スターツ出版株式会社
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