勇者の孫は逆チート〜ハズレスキルしか手に入れられない不遇な男の、やがて英雄?になる物語〜

陰陽@3作品コミカライズと書籍化準備中

第1話 僕のスキルは口にするのも恥ずかしいものでした

 僕、こと、マクシミリアン・スワロスウェイカーは、名門マジェスティアラン学園への入学願書提出時の添付資料を作る為、自宅にて人生初の鑑定を受けていた。


 マジェスティアラン学園は、貴族の子どもばかりが通う、魔法、剣、弓、盾職などのあらゆる戦闘関連職業のスキルについての戦い方を教える学校で、特に魔法に関しては他に追随を許さない講師陣を揃え、代々王宮に仕える人間を輩出している名門校である。


 ここに通うには、親の家柄や国への貢献度が最も重視される為、平民が通うことはないが、ごくまれに本人のポテンシャルが高い場合においてのみ、平民が通う場合もある。


 その時は特待生としてすべての授業料等が免除される。遠くから来る場合は寮の費用も免除され、手ぶらで通うことができるのだ。


 平民にそういった人間が現れる場合は、かなりのスペックを誇るチート級の超人だからであって、やがてはこの国の建国の英雄と呼ばれる、伝説の勇者と同じ存在になりうる可能性を秘めているからだ。


 何のスキル持ちなのかは知らされていないが、今年は約1名、そんな平民も入学してくることになっていた。


 鑑定結果は健康診断程度の添え物に過ぎないが、最終学年になるとランクごとにクラス分けがなされ、その参考資料としても使われるという、一応大切なものになる。


 もちろん自身のレベルが上がるにつれて、使えるスキルも増えてはいくが、スキルが付与されるかどうかは個人差があるのだ。


 レベルが30をこえてようやく1つ与えられる、などという場合もあり、大体は入学当初からのスキルの状況と変わらない為だ。


 ちなみにスキルは、生まれつき付与されている〈天恵〉と呼ばれるもの、レベルアップの恩恵で貰えるもの、スキルを使ううちに、スキルそのものの経験値がたまり派生するもの、魔物がドロップするもの、と様々だ。


 〈天恵〉で与えられたスキルが恵まれている者ほど、レベルアップ時におけるステータス上昇値が上がる為、非常に重要なものだ。


 魔物がドロップするスキルには、2種類のドロップの仕方が存在するのだが、飲んでみるまで、なんのスキルが手に入るか分からない、謎の液体タイプのものと、スクロールと呼ばれる、手に入るスキル名と効果が明確に書かれた、巻物タイプのものがある。


 ちなみに液体タイプのスキルは定着することが殆どだが、スクロールは一回こっきりのものも多く、消耗品扱いのアイテムとして、一般的に広く扱われている。


 だがまれにスキルが定着するタイプのスクロールも存在する。おまけにその場合、使えるスキルであることが多いことから、定着スクロールは冒険者の間では、かなり高値で取引される稼げるレアアイテムとなっている。


 金持ち貴族たちの中には、入学前に定着スクロールを子どもに買い与えて、箔をつけようとする親も多く、毎年この時期になると、定着スクロールの値段が最も高騰するのだ。


 特に今年はチート級の平民に成績1位を独占されるかも知れず、それを恐れたプライドの高い貴族たちが、普段よりも定着スクロールを買い漁っているという。


 誰だってやがていずれは誰かに負けるのだから、そんな真似をしてまで平民に勝とうとしなくても、よいと思うのだけど、お貴族様というものは、プライドの化け物らしい。


 この場には鑑定師の他に、僕の両親、祖父母が立ち会っていた。

 僕の祖父、フェルディナンド・スワロスウェイカーは、建国の英雄騎士と呼ばれる、平民出身の元冒険者かつ、伝説の勇者だ。


 伝説の魔剣、イグナイトスティールを携えて戦うその姿は、子どもの頃に読み聞かされた絵本のモデルにもなっている。


 未だ頑健なその体は、現役といっても差し支えない程で、たまに王宮にどうしてもと懇願されて、騎士団の指南役をやったりもしている。


 絵本と大きく違うのは、彼の頭髪が荒野のごとく寒々しいことくらいで、うちの家系は隔世遺伝するぞ?と聞かされていた僕は、将来に対する不安の中で、最も大きいのが、この彼の外見であった。


 その妻である祖母、マリア・ベルチェノワクロイス・スワロスウェイカーは、このベルチェノワクロイス王国の国王の母親、つまり皇太后の妹にあたる、銀髪ツインテールの元王女様で、エルフの血を引く超絶美人、かつ聖魔法をあやつる聖女だった。


 祖父と出会った頃から、見た目年齢がほぼ変わらないらしく、今では僕の方が年上にさえ見え、祖父の横に並ぶと殆ど犯罪の匂いがする。


 幼い頃から何度も一緒に風呂に入ったが、体もしっかりハリがあってみずみずしい。精通を迎えた12の年に、さすがに恥ずかしくなって、僕の方から断るようになったけど。


 この国の少年たちの初恋をことごとく奪ってきたこの罪深き女性は、実は結婚していても夫婦関係がないのでは……?と噂される程に、清らかで性の知識に疎い。

 恥ずかしながら、僕の初恋もしっかりこの祖母である。


 ちなみにファミリーネームのように、名前と一族名の間に、別の一族名がはさまれるのは、既婚者の女性のみとなる。


 だから我が家の場合、父がマティアス・スワロスウェイカーで、母がジョヴァンナ・メディシス・スワロスウェイカーとなる。


 既婚者の場合、結婚式や葬式に参列する場合の服や、パーティーに参加する時の服も、既婚者専用のものを着なくてはならず、一見して既婚者だと分かるようになっている。


 のだが、それを知らないよそから来た冒険者だ、旅で近くに立ち寄った遠くの国の王子であるだとかが、毎年祖母に惚れてプロポーズする男たちがあとを絶たないのであった。


 ちなみにこれは、隣国であるイトゥルビデ王国から独立を勝ち取った際に、隣国の習慣を引き継いだもので、僕らのような貴族の間にだけ存在する決まりごとである。


 ちなみに我が家も祖父と祖母のおかけで、公爵家などという大層な地位を与えられてはいるが、元が平民の冒険者出身の勇者である祖父の影響で、普段の話し方やマナーなんかは、至って普通の庶民と変わらない。


 いざという時の為に、一応祖母と、元々貴族であった母より、マナーを習っている為、どこに出ても恥ずかしくなく出来るには出来るが、祖父のやり方の方が気楽でいいのだ。


 この決まりごとについては、今どき男尊女卑も甚だしいと、変更を提案する女性陣の活躍が近年目覚ましく、新興国である我が国的には、やがて消えゆくものであるのかも知れなかった。


 個人的には祖母を見た瞬間、既婚者と分かってあからさまにガッカリする男性陣の多さに、残しておいた方が変なトラブルに巻き込まれずに済むのになあ、と思ってもいた。


 今だってたまに強引な奴らがいるくらいなのだ。そのたびに、自身のレベルとステータスが、スコーンと頭から吹っ飛んだ祖父が、キレて見境なくあたりを破壊しては男どもを追っ払うことになり、その結果ご近所に謝りに行くのは、僕と父の役目なのである。


 時には、本来自分たちが治める領地の領民だけで済む筈の謝罪が、まれに隣の領地の貴族から、またですか、やかましいので勘弁していただきたい、との苦情を、かなり仰々しい正式な書面にて頂戴することとなる。


 祖母も祖父と肩を並べる程に強いので、放っておいてもそんな輩に全然勝てるのだが、幼げでか弱げな祖母の見た目に、祖父の中のオスの部分が爆発してしまうらしい。

 幼い頃は憧れた時もあったけど、いい年してラブラブなのも考えものである。


 鑑定師が僕の前に立ち、左手を差し出すように告げる。僕の差し出した左手を右手で包んだ鑑定師は、明らかに「?」を顔に浮かべて、大きく首を傾げた。


「申し訳ございません。もう片方の手にも、触れさせていただけませんでしょうか?」

 ちなみに鑑定は簡易なものであれば片手のみ、正確なものを調べる時は両手を使う。


 スキルの名前やステータスを確認するだけであれば、片手でことたりるが、ユニークスキルと呼ばれる珍しいスキルの場合、両手を使ってスキルの詳細までを確認しなければ、効果が分からないのだ。


 つまり僕にはユニークスキルが付与されている可能性があるということだ。あの祖父母のポテンシャルを引き継いだ僕の父も、騎士団の1部隊を任されており、孫である僕にも期待がかかる中での鑑定だった。


 そんな凄くなくていいのだ。勇者と王女を両親に持つ父の苦労は、嫌という程見てきている。


 騎士団の一角を担うなど、じゅうぶんに凄いことだのに、親が親だけに周囲の期待が大き過ぎて、それでも最低限レベルと見なされてしまう。


 祖父の両親は普通の人だったと言うし、祖父だけが一族の中で突然変異した、異質な存在であるだけだと理解して欲しい。


 僕は僕で、地に足をつけて頑張れるスキルがあれば、それでじゅうぶんなのだ。引退する頃くらいまでに英雄と呼ばれていたい気持ちはあるけれど。


 願わくば、剣を使うスキルでありますように。子どもの頃からずっと、鍛えてきたのだから。


 両手でしっかりと僕を鑑定した鑑定師が、僕の現在のステータスをハッキリと告げたあとで、生まれつき付与されているスキルを、モゴモゴと濁しながら告げる。


「……マクシミリアン・スワロスウェイカーさん、あなたのスキルは、──〈勃起不可〉です。」


 ?

 ???

 ?????

 その場にいた全員の頭にハテナがともる。


 美しく清らかな祖母様は、初めて聞いた言葉のように、「ぼ……?」とキョトンと首を傾げている。

 こんな言葉を彼女に聞かれて、僕は死ぬほど恥ずかしかった。


「あの……それはどういうスキルなのでしょうか?」

 なんの聞き間違いかと思った僕の父が、鑑定師に困った表情で尋ねる。


「どのような状況におかれましても、海綿体が充血しなくなる、とのみ書かれておりました。」

 鑑定師も困ったような表情を浮かべて、申し訳なそうにそれに答えた。


 かくして僕に与えられたスキルは、〈勃起不可〉唯一つのみと判明した。

 幼なじみのユスラン・イエーガーも既に鑑定を済ませていて、マジェスティアラン学園への進学を決めている。


 俺は〈風魔法レベル1〉と〈剣士〉だったぜ!

 お前のスキル、なんだったんだよ?

 と聞かれたが、う、うん、まあね、と適当に濁すしかなかった。


 彼の家は代々魔法剣士や魔法使いを輩出していて、彼の兄2人もマジェスティアラン学園の卒業生だ。


 現在彼の兄の1人は王国の騎士団に所属していて、もう1人の兄はやはり魔法師団に所属している。とても優秀だと聞いていた。

 おそらく彼も魔法剣士を目指すのだろう。


 こんなこと、誰にも言えないし、誰にも知られたくもない。

 家族も使用人たちも、はれものにでも触るかのように、遠巻きに毎日僕を見てくる。


 入学したら自己紹介で、必ずクラス全員の前で、今のレベルと、持っているスキルを、強制的に発表させられるのだ。

 恥以外の何ものでもない。


 しかも今年はなんと、美少女で有名なゾフィー・バイエルン、エリザベート・バイエルンの双子姉妹と、幼なじみのカロリーネ・ズルツバッハ、隣国イトゥルビデ王国からの留学生で王女のヘンリエッテ・ツヴァイブリュッケン、おまけに国1番の美少女(?)と名高い祖母を超えるとも言われている、アマーリエ・ダルムシュタットまで入学予定なのだ。


 全員めっちゃ可愛いので、この僕をはじめとする、今年の新入生男子のみならず、マジェスティアラン学園の男子生徒全員が、ワクワクしながら、入学式のその日に彼女たちを見ることを、待ち望んでいるのである。


 そんな彼女らのいずれかと、同じクラスになって、目の前で自己紹介することになってみろ。


 僕のスキルは、〈勃起不可〉です!って?

 彼女らに続くすべての道が、そこで閉ざされることだろう。


 オマケに昨年度の、マジェスティアラン学園最優秀生徒に選出された、美人かつ巨乳で有名な、シャルロッテ・ベルギエン先輩が、今年から教師として教壇に立つと言う。


 密かに遠目に憧れていた彼女が、担任教師だったりした日にはもう……。目も当てられないどころの騒ぎではない。


 親が婚約者を決める家も未だにあるが、殆どの貴族の若者が、この学園で相手を見つけるのである。


 つまりここで女性陣に引かれてしまうということは、将来の花嫁候補が一切いなくなると言っても過言じゃないのだ。


 もちろん平民から選んだっていいわけなのだけど、王宮の仕事に就くことが多い、マジェスティアラン学園の卒業生にとって、平民とかかわる機会は殆どないと言っていい。


 街をパトロールする部隊に配属された騎士たちの中には、そうした平民の女性と結婚する人もいるが、もちろん数は少ない。


 入学式までまだ時間はタップリあるのだ。せめてそれまでに1つでも、まともなスキルを手に入れたい。


 何もすべてのスキルを伝える必要はないのだ。マトモなスキルだけを言えばそれで自己紹介を無事切り抜けられる。


 僕は祖父から譲り受けたイグナイトスティールとともに、ダンジョンにこもりレベルアップすることを決めたのだった。


「最初の相手がスライムとか、日和ってんなあ。」

 イグナイトスティールが僕に毒舌を吐いてくる。


 ちなみに彼は意思を持つ、喋る伝説の武器で、未だにその派生を残しているという、成長過程の状態の魔剣である。


 現在は炎と氷のダブル属性を持ち、一定の確率で麻痺と毒を相手に付与出来、なおかつ攻撃力強化と高い会心率持ちで、長剣のクセにスタンも取れるという、まさに初心者が持つにはおかしな程のチート武器だ。


 この国で剣を扱う人間なら一度は憧れる、ドワーフの国の伝説級の鍛冶職人、イスラファンの手による作品である。


 祖父は冒険者だった最初の頃に、イスラファンに気に入られて、イグナイトスティールを作って貰っていたのだった。


「フェルディナンドは最低でも、ゴブリンキングを狩ってたぜ?」


「それはお祖父様が、お前と知り合った時点で、ある程度のレベルがあったのと、剣聖のスキル持ちだったからだろ?

 僕はマトモなスキルがないし、まだレベル1の初心者なんだから、これでいーの、フツーなの!」


 スライムを狩りに行くと伝えてからというもの、ずっとこんな調子である。スライムなんて一度も切ったことねーよ……とブツブツ言っている。


 ダンジョンに潜るという、まともなスキルなしの僕を心配して、祖父が授けてくれたのだが、普通の武器にした方が良かったんじゃないかと、早くも後悔していた。


「来たぞ……!」

 目の前には20体のスライムが集まって、ウロウロしていたり、じっとしていた。スライムは常に群生している為、これでも少ない方である。


 スライム自体はなんの魔法も使わない、初心者向けの魔物とされているが、倒すのに時間がかかり過ぎると、まれに集まって巨大化し、キングスライムという、復活やステータス上昇、炎属性の魔法などを使える、強力な魔物に変わる為、初心者には最初にして最強な敵でもある。


「は……、こんなもん、屁でもねえや。」

 イグナイトスティールが僕の体をあやつって、自ら動こうとする。意思を持つ武器は、こういうところがやっかいなのだ。


「お、おい!

 これは僕の鍛錬なんだから、黙って見ててくれよ!」


「じゃあさっさとしろよ、こんなもんに1分もかけてんじゃねえや。」


「──言われなくとも……!」

 僕だって幼い頃から、父と祖父に鍛えて貰って、剣の腕はそれなりなのだ。


 ──横一線ホリゾンタリー!!


 集まったスライムの群れを、まとめて10体なぎ払う。殆ど倒したが、2体は捉えきれずに再生した。

 後ろにいた10体を含める12体が、再び襲いかかってくる。


 交差切りクロスエンド!!


 飛び回り高さの違うスライムを、斜め十字に切り捨てる。

 僕のレベルが上がる音がした。そして上がったステータスと、手に入れたスキルを告げられる。


 これは神の福音と言われていて、誰しもがレベルアップするたび、必ず聞こえるものになる。ただし本人にしか聞こえない。


 レベルが2になりました。

 HPが5上がりました。

 MPが3上がりました。

 攻撃力が2上がりました。

 防御力が1上がりました。

 俊敏性が1上がりました。

 知力が2上がりました。

 スキル、〈逆剥けが治る〉を習得しました。


 レベルが3になりました。

 HPが3上がりました。

 MPが3上がりました。

 攻撃力が3上がりました。

 防御力が2上がりました。

 俊敏性が1上がりました。

 知力が1上がりました。

 スキル、〈足元から5ミリ浮く〉を習得しました。


 ちなみにレベルが1上がるごとに増えるステータスは、HPとMPが3〜5で、それ以外が1〜3のいずれかが付与される。

 付与される数字はランダムだと言われている。


 これは剣士でも魔法使いでも、すべての人間が変わらないのだが、専門の職業スキルを持っている人間であれば、剣士はHPや攻撃力が、魔法使いはMPや知力が、弓使いは攻撃力と俊敏性が、盾職はHPや防御力が、上がりやすくなるという特性を持つ。


 ちなみに伝説の勇者ことお祖父様と、聖女かつ王女だったお祖母様は、どちらもすべてのステータスが、フルカンストに到達している化け物で、その力を恐れたことにより、隣国より独立出来たのだと言われていた。


 レベル999になるとその先のレベルは存在しないが、ステータスだけは上がり続けるものだという、この国の教科書にも載っている知識の元が、うちの祖父と祖母なのである。


 何でもドラゴンやフェニックスを、倒したとか、倒してないとか……。ともかく、そんな祖父母を身内に持つ僕や、両親に持つ僕の父などは、初めからある程度の結果を出すことを、周囲に求められてしまうのである。


 そして初めてのレベル上げの結果、最終的に僕のステータスはこうなった。


────────────────────

 マクシミリアン・スワロスウェイカー

 15歳

 男

 人間族

 レベル 3

 HP 125

 MP 88

 攻撃力 56

 防御力 69

 俊敏性 37

 知力 44

 称号 

 魔法

 スキル 勃起不可 逆剥けが治る 足元から5ミリ浮く ────────────────────


 HPが攻撃力と防御力の合計で、MPが知力の倍になっているのはたまたまだ。レベル1の時はそうではなかったのだから。


 それならレベルが2に上がって、攻撃力と防御力が合計3上がっているのだから、それならHPも3上がらないといけないのに、上がったのは5だ。


 レベル2つ分の合計だけなら、確かに攻撃力と防御力の合計と同じく、HPが8あがっているけれど。


 ちなみに自分で見ることは出来ない為、最初に鑑定師に教えて貰ったステータスに、頭の中で数字を計算して加えただけのものだ。


 だから本来なら、手に入れたスキルを改めて鑑定師に見て貰わなければ、ユニークスキルの正体は分からない筈なのだ。


 だけど聞くまでもないくらいに、とてつもなく狭い範囲の効果を、その名に冠したユニークスキルばかりだった。


 これで実は知能上昇の効果があるだとか、会心率アップするだとか、名前に関係のない効果を持つスキルだとは、まったくもって期待出来そうにない。


 僕が最初に手に入れたスキルは、〈逆剥けが治る〉と、〈足元から5ミリ浮く〉だった。


 なんなんだよ、ユニークスキルのユニークって、そういう意味じゃない筈だろ!?

 確かに世界で僕だけだろうさ!こんなしょーもないスキル持ってんの!!


「良かったじゃねーか、スキル手に入れられてよ。さ、サッサとこんなとこ抜けて、ゴブリンキング狩りに行こうぜ。

 ずっと戦ってなかったから、体がなまってしょうがねえ。」


 剣がなまったら、切れなくなるんじゃないのか?なまくら剣って言うもんな。

 僕は内心そう思ったが、特にツッコまなかった。


「ほら、ちょうどいいことに毒沼だぜ?使えよ、スキル。使わねえと渡れねえだろ。」


 イグナイトスティールが言う通り、目の前には、真紫の、歩くだけでHPが削れる毒沼が広がり、一切普通の足場がなかった。


 僕はフルフルと震えながらも、〈足元から5ミリ浮く〉を使って、そっと毒沼に足を踏み入れた。


「──こんなスキル、使えない!

 僕は、僕は認めないからなあ!!」


「いいからさっさと渡りやがれ。」


 たった5ミリでも、しっかり毒沼に触れずに歩けることが悔しかった。僕は毒沼を渡り切ったあと、改めて決意を固めた。


 チクショー!

 絶対まともなスキルを手に入れて、僕もいつか英雄と呼ばれる男になってやるんだ!


 ──これはいずれ英雄?と呼ばれる僕の、ドタバタ奮闘記の記録である。


まだ冒険を続けますか?

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