五. 戦という災い
夏姫が毘亥国へ発とうとしたその日、戦が起こりました。
祝い事に沸くこの国に、反対側の
思いもよらぬ攻撃に、都は陥落。
殿様は自害し城は燃えました。
夏姫は血を繋ぐことを厳命され、ひそかに城を出されました。
しかし、城下にはあちこちに火が放たれ、狼藉を働く者で溢れかえっていました。
夏姫は何とか城下を脱し、毘亥国へ逃れようと試みましたが、戯れのように人を殺しまわる男たちに見つかってしまいました。
新しい獲物を見つけ、ぎらついた表情で血に濡れた刀を振りかざした男たちが、夏姫の目前に迫ってきます。
諦めかけたその時、辺りに濃い霧が立ち込めました。
空気が震え、パチパチと紫色の光がはじけています。
異様な空の様子に、人々は天を眺めます。
すると空には、巨大な隻眼の白い竜が現れて、大きな稲妻を落としました。
驚いて逃げだす者、果敢に竜に矢を射かけるもの様々です。
―—お願い。逃げて。
そんな声が聞こえた気がした夏姫は、気力を奮い立たせ全力で走り、街の外を目指しました。
息を切らせて街はずれまでやってきた時、運悪く掠奪を行なっている集団に出くわしてしまいました。
慌てて逃げましたが、やって来た男たちに殴られ、衣を引き剝がされました。
夏姫は相手の腕の一部を噛みちぎる勢いでかぶりつき、必死に逃げて山の入り口まで走りました。
怒りに燃える男達が追ってきます。
「神様、助けて下さい。お願いします」
夏姫は天に祈りながらも、もはやこれまでと舌を嚙み切ろうとしました。
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