二. 優しい君

 恵伊えい国の夏姫は、お城の庭で猫のトラが、きらきら光る紐を口に咥えているのを見つけました。


「こら、トラ。いたずらは駄目よ」

 トラはぴょんと跳ねて、紐をとり落とすと駆けて行ってしまいました。

 夏姫は、輝く紐を確認して驚きました。

 紐だと思ったものは、白く輝く蛇だったのです。 

 蛇の腹には噛み跡がくっきりついて痛そうです。

 姫は手布を取り出すと、優しく巻いてあげました。

 蛇は、お礼をいう様にゆっくり藪の中に帰っていきました。



 数日後、姫が庭で遊んでいると、とても綺麗な男の子がやってきました。


「夏姫、こんにちは。この間はどうもありがとう」

 なんのことか分からず、夏姫が首を傾げていると、男の子はきちんと畳んだ手巾を取り出して言いました。

「私は、白紫竜びゃくしりゅう。蛇の姿の時に助けてもらった」

 

 夏姫の助けた蛇は、竜だったというのです。

 よく見ると、宝玉の様な薄紫の瞳で、地上の者ではなさそうです。

 白紫は、「虹のかけら」という砂糖菓子をお礼に渡してきました。口に入れると一瞬でふわっと溶け、花の香りが広がる美味しい菓子で、夏姫はとても喜びました。

 

「また持って来よう」

 嬉しそうな夏姫の様子を見た白紫は、そう約束して帰っていきました。

 

 それからというもの、夏姫が一人で庭に居る時、白紫は菓子を持ってやってくるようになりました。

 城内に同世代の子供が居なかった夏姫は、白紫とのひと時がとても楽しみでした。

 会う回数が増えるに従い、白紫も自分の事を話すようになりました。

「私は竜だけれど、とても弱いんだよ」

「そうだと思ったわ。だってトラに捕まってしまうんだもの」

 白紫の告白に夏姫はクスクス笑いました。

「母上は、竜王神で物凄く力が強いんだ。兄上達も竜帝の名に相応しい強さを持ってる。大雨も大嵐もおこせる」

「白紫も何かできるの。見てみたいわ」

「私は、頑張っても霧雨を降らせる位しかできないよ。死ぬ気でやれば雷の数発くらいはやれると思うけれど」

 夏姫に強請られて、白紫は恥ずかしそうに答えました。

「すごいじゃない。ねぇ、ちょっとだけ見せて」

 夏姫の笑顔に負けた白紫は、少しだけ霧雨を降らせました。

 日の光が照らす中降り注いた雨は、淡い虹を作り、それを見た夏姫は歓声をあげたのでした。


 2人は、幼い時を、少年少女の時代を親友として過ごし、時を重ね、それぞれ美しい娘と若者に成長しました。

 

 そして、年頃になった白紫と夏姫は、互いに淡い想いを抱くようになってしまったのです。

 

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