繰り返しの日常

宵闇(ヨイヤミ)

第1話

目が覚めたら俺は、生きていた。それは普通のことかもしれない。だが俺にとって、それは異常なことなのだ。

なぜなら、俺は昨夜、酩酊した状態で川に飛び込んだ。ようは自殺したんだ。冷たい川の水に体温を奪われていくのを、薄れゆく意識の中で感じていた。俺はあの時、確かに死んだんだ。

それにもし助けられたのだとすれば、俺は今病院のベッドにでもいるはずだ。しかしどうだ。今いるのは自分の部屋だ。酩酊するまで飲んで川に飛び込んだんだぞ。そんな奴が、助けられてそのまま家のベッドに戻されるはずがない。

「あ、目が覚めたの?」

どこからか声がした。その声は全く聞き覚えのない男の声だ。しかし何故だろう。その声がどこか懐かしいような、ずっと聞いていたかのように思えてきて仕方がない。

部屋を見渡すと、俺のほぼ真後ろで、壁に凭れて座る男が一人いた。少し青みがかった髪色に、黄色を帯びた眼球をしていて、顔立ちだけを見ればどちらなのかが分からない程、中性的な顔立ちをしていた。

「どこか痛いところはない? 体調はどう?」

まるで昨夜俺が自殺したのを知っているような口振りだ。だがあの場には誰もいなかったはずだ。だから誰も知るはずがない。近くの住宅に住んでいて、たまたまその現場を目撃されたのかもしれないが、だとしても俺の家を知るはずがない。俺の家は自殺した場所から三駅ほど離れた場所にあり、駅からも少し距離がある。

「あ、もしかして『死んだはずなのになんで生きてるんだろう』って思ってる?

まぁ、驚くよね。だって昨夜本当に君は死んでるんだもん」

やはり俺はあの時死んでいたらしい。そしてこの男が言う通り、何故生きているのか理解することが出来ていない。

現実が辛くて、もう生きていける自信がなくなって、俺は酩酊するまで酒を呑み続け、その後川へと飛び込んだ。やっと、死んで楽になれると思っていたのだ。

そんなことを考えていると、男は急に立ち上がり、こちらを見て“にこり”と、少し不敵な笑みを浮かべた。

「ようこそ、こちら側の世界へ。永遠にこのループするこの世界を楽しんでね」

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繰り返しの日常 宵闇(ヨイヤミ) @zero1121

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