学生寮は戦場だ ~俺たちの日常がバトル漫画みたいに熱いだって!?~
比良
繰り返されたやりとり
「もう一回。」
「また明日な。」
俺が負ける度に繰り返してきた気に入らないやり取りだ。
学生寮の共同部屋。十畳ぐらいの和室はいつも混沌としている。
酒盛りする男達、ネット対戦で奇声を発するオタクに全裸で筋トレする変態。その中で男二人、畳の上にリサイクル店で買った安物のチェス盤を置いて、黙々と対局していた――。
チェスを始めたきっかけはわりとしょうもない。「履歴書に趣味チェスって書いたらカッコよくね?」とウキウキで親友に話してみたら、「それ最高じゃね?」とノリノリで返された。そのままの勢いで近くのリサイクル店でウキウキノリノリショッピング。
だが、いざチェス盤を買ってみて対局したら、ものの数分でボッコボコに負かされた。親友は将棋経験者だったのだ。将棋経験者は大体チェスもできる。 きっと親友は対局が終わるまで笑いをこらえていたに違いない。
俺は
◇
古本屋で初心者向けのチェスの教本を買ってコソ練の毎日だ。
――ついにその日がきた。復讐の日だ。
電撃の煌めき。音が消え、視界が狭まる。もう酔っ払いどもの馬鹿笑いも、オタクの奇声も聞こえない。全裸の変態だって目に入らない。
勝負は中盤。普段ならここから攻め切られて負ける。だが、この日は違った。今まで見えていなかった致命的な隙が見えた。努めて苦しそうに演技しながら、相手の懐に
博打的な一手だ。冷静に対処されれば勝負の均衡は崩れない。だが、これが通れば勝てる。
親友は慢心で勝負勘が鈍っているはずだ。苦し紛れの防御に見えるはずだ。いつも通り攻めれば勝てると思っているはずだ。通れ! 通れ! 通れ! 顔に出さないように念じる。
無限にも思える時間が過ぎて、親友が手を動かす。
口角が上がる。敵陣の急所にクイーンを打ち込み、親友の顔を見る。顎に手を添えて考えている。しかし、もう遅いのだ。親友の顔色が変わる。悟ったらしい。もう、詰んだ。
晴れやかな気分だ。課題そっちのけで勉強した甲斐があった。いくつか単位を落としたかもしれないがそんなことも気にならない。
そして、いつものやり取りだ。
「もう一回。」
「また明日な。」
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