冷蔵娘についてのお話

 私のつまらない話を聞いていくかい。私は話が下手だから、期待しないでくれたまえ。


かれこれ二十年前くらいの夏、狂っちまいそうなほど暑かった夏、君たちのような少年少女が楽しく駆け回っていた夏。物が散乱した四畳半の部屋の隅で、私は冷蔵庫の声を聞いたんだ。感情のない、ひんやりとした女の声だった。──暑い。もっとクーラーの温度下げて。冷蔵庫はたしかにそう言ったのさ。嘘じゃない。本当だよ。

私はまず、自分の神経が正常かどうかを熱気にやられた脳ミソで慎重に考えて、確証を得る手段がないことを悟ってから、「ブチのめすぞ」と挨拶した。すると彼女も「殺す」とかなんとか返事をしてくれたんだ。驚いたね。そして嬉しかった。

冷蔵庫といっても、ただの冷蔵庫じゃあない。私が発明した、ワンダフルでマーベラスな冷蔵庫さ。なんてったって、四肢と胴と顔がついてるからね。大きさは浜辺の似合うお嬢さんぐらいで、胴の部分に左開きのドアと、ジュース二本分くらいが入る冷蔵スペースがあるんだ。かわいいだろう? 世界初の人型冷蔵庫、さしずめ「冷蔵娘」だな。私は彼女にレイと名付けた。懐かしいなぁ。服も着せてやってたんだよ。花柄のワンピースね。

どうしてレイを作ったのかって? あんまり覚えてないなあ。ただ一つ言えるのは、当時私は変わったものが大好きだったということさ。君たちもそうだろ? みんなが持ってない変わったオモチャ、変わったカチューシャを持っている子に憧れるよね。私もそうだったんだ。ちょっと憧れすぎるくらいにね。

私はそれまで色んな発明品を作ってきたけど、それもこれも全部、サイコーに変わったものを作りたいからだったんだ。でも結局、納得のいくものは一つもなかったな。表層の特異性で無価値を誤魔化す粗大ゴミばかり。そうやって行き詰ってちょうど悩んでた頃に、聞こえるはずのないレイの声が聞こえてきたんだ。私は、チャンスだと思ったね。

 翌日、レイを助手席にくくりつけて軽トラを走らせて、群馬のクソ田舎の丘の上にあるラブホテルへ行ってね。部屋でレイを縛り付けて、ワンピースをビリビリに切り裂いて、備え付けのきったねぇ旧型冷蔵庫に彼女を押し倒させた。レイはわんわんわめいた。そりゃもう盛大に。でもこんなのは序の口さ。私はチェーンソーを取り出し、彼女の左脚に当てた。悲痛な声がいっそう響いた。次いで右脚を切断した後、ビデオカメラで撮影するのを忘れていたことに気付いた。もったいないよね。三脚を組み立てている間に、レイにどうしてこんなことするの、って言われたけど、なんでなんだろうなあ。私にもわからないわけ。ハハハ!

 四肢を全部切り落とした後、もうレイの声は聞こえなくなった。不思議なことに、録画したビデオテープには、何も映ってなかったんだよね。それで変わったものを作るのに飽きちゃってさ。その後家電メーカーに就職して、この町に引っ越してきたという訳だ。

 これでこの話はおしまい。もう暗いから、気を付けて帰るんだよ。

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