聞き間違い

「優しい、お兄ちゃんだね」


 貴方は言った。


「野菜のお兄ちゃん?」


 聞き間違えた。

 貴方は、笑う。

 口元押さえた笑い方、

 細められたその目すら。


 ぼやけて、今は手繰れない。

 記憶の保存は曖昧で、

 過去に壊れた己には、

 思慕する資格は有りはしない。


 だから叫び、酔い、惑う。

 更に壊せよ、我が心。

 歪みが私に足りないの。


 底無き絶望積み重ね、

 未だ聞こえぬ声がする。


「雨が止まない、濡れちゃうね」


「君は今後どうしたい?」


「貴方は立派になれるから、私を忘れて幸せに」


 望んでない、望んでないから。

 その時は、

 聞き間違えた振りをした。


 嗚呼、でもせめてあの時は、

 聞き間違えではなかったと。


 そうしておけば良かったな。

 照れてふざけず、そのままに。

 林檎の果実の花言葉。

 それこそ私に相応しい。


 罵倒しかされてはいなかった、

 この身に言葉が熱かった。

 苦々しくて熱かった。

 珈琲のように熱かった。


 「-ーーーーー」


 ここら先は、蓋の中。

 探れば、満足するだろう。

 されど蓋が開いたら、

 壊れて狂ってお終いさ。


 故にこのまま繰り返す。


 聞き間違える振りをする。



「貴方が■■」


痘痕あばたが隙?」


 聞き間違えた振りをした。




 

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